京都・嵯峨野の非公開名刹で和歌と美術品の世界に耽る −美術商による解説付きでたしなむ茶話会−

美術商・中村優希氏に誘われる芸術美の世界

京都を拠点に、国内外の美術品を幅広く取り扱うアートギャラリー「中村清草堂」。本体験を導くのは、ギャラリーの代表を務め、美術商として数々の美術品に触れてきた中村優希氏です。中村清草堂の立ち上げ前には、国内大手美術オークション会社で西洋絵画から古美術、現代アートに至る様々な美術品の鑑定や、企画運営、デジタルマーケティング戦略にも携わるなど、多彩に経歴を重ねてきた中村氏。優れた鑑定力はもちろん、市場価値を見極め最良のタイミングで美術品を提案する識見までも兼ね備え、多くのコレクターから信頼を寄せられています。

実家は京都の神社仏閣の庭園を手がける老舗造園業を営み、幼い頃から日本の美に囲まれていたという中村氏。「石や古物を扱う家で育ちましたが、私はどちらかというと西洋美術が好きでした。大学時代に留学したベルギーでアール・ヌーヴォー建築に魅了され、オークション会社に勤めていた頃は、エミール・ガレやドーム兄弟などのアール・デコ作品を得意分野としていました」。独立して地元の京都へ帰ると、自身のバックグラウンドに立ち戻るかのように、石や伝統建築、和歌などの日本の美に再び惹かれていったのだそう。本体験では、そんな中村氏が日本の美、西洋の美それぞれに光る魅力を丁寧に伝えます。

草花が豊かに芽吹く非公開名刹で感性を開く

都から離れた場所にあり、かつて平安貴族や皇族たちの別荘地として選ばれた嵯峨野・小倉山。｢小倉百人一首｣の名称の由来となり、歌枕としても多くの歌人たちに親しまれてきました。中村清草堂があるのは、1596（慶長2）年に日禛上人（にちかんしょうにん）が隠棲のために小倉山の中腹に創建した歴史ある寺院。稀代の歌人・藤原定家が小倉百人一首を編纂した山荘があった場所と伝えられ、境内にはその史蹟が残されています（※）。

※藤原定家の山荘跡地には諸説あります。

京都の数ある神社仏閣の中でも、この寺院がもっとも好きだという中村氏。「悟りを開いた平安貴族が心の癒しを求めて移り住むような場所だったため、市街地の寺院ほど派手さはありません。のどかで落ち着いた雰囲気が魅力です」。経年によって価値が上がる美術品と同じように、この境内にある建物や草花も、長い年月を重ねたからこその美しさが宿ります。

百人一首をなぞりながら、平安貴族の情緒を体感

座学の後は、中庭を望める縁側で文机に向かい、季節に合わせた百人一首を筆でなぞります。平安貴族が和歌をしたためる際に好んで使っていたのが王朝継ぎ紙。様々な色に染めた和紙をいくつか重ね、切箔などの装飾を施した優美な和紙で、情感を伝える上で大事な要素のひとつとされていたそう。本体験では、気兼ねなく書を楽しめるようにと、和紙専門店「京都楽紙館」から取り寄せた王朝継ぎ紙を模した紙を使います。書家による下書きが用意されているため、文字を書くことに自信がなくてもご安心を。

墨は、細やかな文字を書くのに最適な粒子の細かいものを中村氏が厳選。墨液をつくるための水が入ったグラスはオールドバカラです。さらにその水を硯に落とす際には、ノルウェー製のスターリングシルバー（92.5％の銀と7.5%の銅のみでできた銀合金）のスプーンを使用。最高級の逸品が並ぶ贅沢なセットに、おのずと背筋が伸びます。和歌に込められた想いや情景を想像しながら、机上で織りなす美しい芸術を堪能しましょう。

世界の美術品で味わう至高の茶話会

しばし和歌の世界に耽ったあとは、中村氏が国内外から選りすぐった名器を使って茶話会を楽しみます。コーヒーまたはお抹茶（※）と共にいただく和菓子は、中村氏と親交の深い京都の老舗和菓子屋「甘春堂」がOtonamiのために特別に用意した季節の上生菓子（お菓子の内容は体験日によって変わります）。取材日は、李朝時代に祭器として使われていた高杯皿にのせて登場。コーヒーはデンマークの窯元「ロイヤル コペンハーゲン」のブルーフルーテッド フルレースのカップに注いで。それぞれの造形美を、眺めるだけでなく実際に使って体感します。

※午前の回（10:00～11:30）はコーヒー、午後の回（13:00～14:30）はお抹茶を提供します。

テーマとして扱う器は月替わり。時代背景や用途、デザインの特徴などを教わりながら、器への造詣を深めます。プロならではの真贋の見極め方について、例えばバカラをはじめとしたクリスタルガラス製の品は、触れただけで年代がおおよそ判断できると中村氏。「クリスタルには鉛が入っているため、一般的なガラスより透明度が高く肌感が冷たいんです。きめ細かく肌ざわりがなめらかで、窓ガラスと触り比べると違いが分かりやすいですよ」。美術品が醸す厳かな空気とは対照的に、中村氏はどんなことも気さくに分かりやすく教えてくれるので、ぜひ疑問を投げかけてみてください。

京都・嵯峨野の自然の中で、時を重ねた上質の美に気がつく

体験後はご希望により、中村氏の案内でギャラリーの展示品を鑑賞することも可能（※）。また時間が許せば、庭園や寺院の境内を自由に散策できます。「和歌には“苔がむす”という句がよく登場しますが、境内を歩いているとその意味がわかると思います。昔と変わることなく生い茂る草花の姿に、平安貴族たちが慈しんだ情緒的な風景を肌で感じられるはずです」。日本の美がいかに自然と密接しているかということを、境内を歩きながら体感してほしいと中村氏は話します。

※ギャラリー見学の所要時間は約15分となります。次の回の準備や片付けがあるため、お時間になりましたらお声がけさせていただく場合がございます。あらかじめご了承ください。

一方、西洋では「自然はコントロールするもの」と考えられてきたのだそう。自然との共生に重きを置く日本の美学は西洋の芸術家たちの心を動かし、美術品にもその影響が見て取れると言います。静寂に包まれた風情あふれる嵯峨野の名刹で様々な国と時代の美術品に触れ、それぞれの美意識の違いを学びながら、大人の知性と感性を磨いてみませんか。