京料理を支える京焼の器を作り続ける老舗名窯
清水坂のほど近く、小松谷のそばに「松谷窯」はあります。開窯100年を超え、京焼の伝統を受け継ぐ名窯として知られています。三代当主・叶松谷(かのう しょうこく)氏は、叶道夫の名で日展を中心に創作活動をする作家であり、京都市立芸術大学で教鞭を執っていたことも。内閣総理大臣賞や京都府文化功労賞、バロリス国際陶芸展グランプリなどの多数の受賞歴を持つほか、日展の審査員も務め、現代京焼を代表する作家です。
叶松谷氏の代表的な作品のひとつ「瑠璃釉内銀朝顔蓋物」松谷窯が掲げるテーマは「食事を楽しくする器」。100年以上変わらず受け継がれてきた信念です。「美しいのは当たり前。盛り付けやすく、運びやすく、洗いやすく、しまいやすい。使いやすくてこそ良い器」と叶氏。松谷窯は京都の料理人たちに支持され続け、“京料理の粋を支える器を現代でも作ることができる”と、その名を馳せています。
松谷窯で人気のカップ&ソーサ―「赤絵金襴手瓔珞碗皿」焼物に留まらない、新しい創作活動にも力を入れている叶氏。小説家の夢枕獏氏、画家の天野喜孝氏とともに、物語と絵画、そして陶器が一体となったアート作品を作り上げ、京都・東京・上海で三人展を開催。GUCCIが創設80周年の際に京都の伝統工芸品とコラボレーションした展示会では、松谷窯が京焼の代表として出品されました。「昔ながらのものをただ伝承するのではなく、時代とともに変化していくことが陶芸の未来につながっていると思います」と話します。
京焼・清水焼の歴史をたどる
はじめに、毎日職人たちが作業をしている工房を見学。そして、三代当主・叶氏により、京焼・清水焼の歴史や特徴をわかりやすく教えていただけます。京焼・清水焼とは、古くから京都市周辺で作られてきた焼物の総称で、様々な技法を用いていることが特徴のひとつ。松谷窯でも、ろくろ成形はもちろん、型打ちや鋳込み、染付、赤絵、金襴手、祥瑞など、高い技術を駆使して器を制作しています。
叶松谷氏が直々に器についてレクチャー工房の棚には初代から当代の作品が並び、それぞれの特徴や意匠など窯の歴史を垣間見ることができます。300年以上前に絵付けされた器と現代の原料で再現した器の比較、時代を追って小さくなっていったお碗、同じ土で作っても酸化と還元でまったく風合いが異なる器など、興味深い話ばかりです。
料理店に評判の茶碗蒸しの器熟練の職人の指導を受けながら作陶体験
いよいよ器の制作が始まります。作陶体験は、叶松谷氏と息子である叶具夫(かのう ともお)氏の2名で担当。手捻りと絵付けのどちらかを選ぶことができます。手捻りを選んだ場合は、湯呑や茶盌など作るものを決め、土台を作り、その上に粘土を紐状にした撚り土を積み上げ、継ぎ目をならしていく作業を繰り返します。
重ねる土は下の段よりも内側に積むのがコツこの後の乾燥、釉薬がけ、焼成などは窯元で作業し、完成品は約2ヶ月半前後でご自宅に届きます。どのような仕上がりになるか、その時までのお楽しみ。職人があえてきれいに整えることはせず、体験者それぞれの風合いや指跡などがそのまま残るようにしています。
手捻りのカップの完成イメージ昔ながらの模様と染料で絵付け
絵付けをする場合は、湯呑、お皿、向付などから1種類を選びます。模様の見本があるので、それを参考に絵を描くのもおすすめ。松や梅、千鳥など、京焼で好まれてきた吉祥文様です。陶磁器に日本画の表現技法をも取り込みながら表現の幅を広げてきた、京焼・清水焼の絵付け技術の一端に触れることができます。
見本を真似しながら好きな位置に絵柄を描く煮出して酸化させたお茶を溶いた伝統的な染料を使うのも、松谷窯の特徴。効率化が進む現代においても、昔ながらの良い技法を守っています。絵付けの柄について解説していただきながら見本を見て絵付けするので、はじめてでもご安心を。描き損じても、直後なら拭き取って修正可能。もちろん、お好みの絵を自由に描くこともできます。手捻りと同様に、絵付けをした器も職人が仕上げをして約2ヶ月半前後でお手元に届きます。
絵付けの湯呑の完成品見本職人が作った器をアレンジ
続いて、職人の技を間近で見られる電動ろくろの実演です。流麗な動きであっという間に出来上がるお皿。このお皿には、自分の名前や日付、好みの柄などを入れることができます。
ろくろの実演は間近で見学できる京焼最高峰の職人と合作した器は、思い出深い品になるはず。平日に体験に訪れれば、絵付けをしている職人の様子も見学することができます。
イニシャルや日付を書いて思い出に陶芸談議に花が咲く一服のひととき
体験の締めくくりには、京都老舗の季節の上生菓子と抹茶をいただけます。抹茶碗はもちろん松谷窯の作品で、口当たりの良さや手に持った時のフィット感を体感できます。叶氏親子を囲んでの一服は、あれこれ話が弾みます。
松谷窯の器で季節の上生菓子と抹茶をいただく「器は割れたり欠けたりすることを気にせず、日常的に使ってほしい」とおふたり。自分で作った器を使う日を想像しながら、お手元に届くのを楽しみにお待ちください。
一つひとつに個性がある松谷窯の抹茶碗