鎌倉彫の伝統工芸士が営む工房
鎌倉幕府が置かれて以降、150年間ほど日本の政治の中心地だった鎌倉。中国から伝えられた禅宗が武士の間に広まり、鎌倉には多くの禅宗寺院が建てられ、寺院を建てる宮大工や仏像を作る仏師が多く集められました。彼らが中国の工芸品を真似て、木に彫刻を施し漆を塗る方法を考え出したのが鎌倉彫の始まりといわれています。その特徴は、大胆で力強い彫刻とやわらかさとあたたかみのある漆塗りです。
本体験で制作できるのは、外側が朱色(左)または溜塗(右)のお椀。さらに内側の色も選べる岡氏が主宰する時蔵(ときぞう)工房は、観光スポットが集まる鎌倉駅周辺の喧騒から離れた鎌倉山の上にあります。天気の良い日には窓から富士山が見える静かで落ち着いた環境で、さまざまな漆塗りの製品が生み出されています。
閑静な鎌倉山の町並みに佇む時蔵工房時蔵工房では、鎌倉彫を中心に家具の漆塗り加工など漆塗り全般を扱っています。その技術の高さから、時には伝統的建築物の修復に伴い古い調度品の依頼が舞い込むことも。一般向けの金継ぎや漆塗りの教室も開いています。
体験場所は曜日によって変わり、1階の工房または2階のアトリエで行われる伝統的な漆芸を継承し、漆の新たな可能性を探求する職人
岡氏は、工芸好きが高じて鎌倉彫の職業訓練校へ入学、漆塗りを専攻。卒業後も修業を重ね、独立して時蔵工房を構えました。その後もさらに研鑽を積んで技術を習得し、2014年に鎌倉彫の伝統工芸士に認定されました。
鎌倉市から優秀技能賞も授与されている岡氏漆は古くから塗料や接着剤として重宝され、防虫や防腐、抗菌効果もあることが知られています。漆の生産量は年々減少しているため今ではとても貴重ですが、岡氏が使用するのは天然漆のみ。「漆は、実用面はもちろん、季節や扱い方によって表情が変わります。とても奥が深く、40年以上触れていても飽きない魅力があります」と話します。
体験で使用する天然漆は、年々生産量が減少する高価なもの漆や漆器の歴史や使い方を熟練の工芸士から学ぶ
はじめに、岡氏による講義が行われます。日本における漆の歴史は古く、漆を使った約9,000年前の副葬品が出土しているそう。漆の歴史や特徴などその魅力を知れば、このあとの体験がますます楽しみになるでしょう。
木に漆を塗ると、強度が増し抗菌能力が高くなる続いて、体験の内容と手順について説明を受けます。天然漆は、私たちが普段目にする塗料とは特性がまったく異なります。漆はもともと液体ですが、高温多湿の中で酵素が活性化し、化学変化が起こることで個体へと変化します。生の天然漆に触れると肌がかぶれてしまうので、漆や道具の扱い方は特に注意深く聞いておきましょう。
本格的な道具や材料の数々。説明を聞いてからいよいよ漆塗りに挑戦天然漆を使ってお椀の仕上げに挑戦
岡氏によれば、漆塗りのお椀が完成するまでには25もの工程があります。器の強度や品質を高める下塗りや、表面を美しく仕上げる上塗りなどを経て、通常は出来上がるまで1ヶ月以上かかります。このプランでは、最終工程としてお椀の内側を研いで漆を塗る体験を行うため、完成品は当日に持ち帰ることができます。
幾重にも塗られたお椀の内側を紙やすりでやさしく擦る体験の第1段階は「研ぎ」の作業で、次に塗る漆を密着させるため表面に凸凹を作ります。漆が塗られたつややかなお椀の内側を水で濡らしてサンドペーパーで擦り、全体をきれいに研ぎます。
生の天然漆に触れないよう、作業時は必ずゴム手袋をつける続いて、漆を塗る面のゴミやホコリを専用の布を使って取り除き、「塗り」の工程に進みます。ハケの持ち方、漆を取る量、力の入れ方、ハケの動かし方など、岡氏のデモンストレーションを参考にしましょう。
漆を塗り終えたお椀。乾いたら出来上がりハケに漆を含ませ、底の方からハケをゆっくり動かして漆を塗ります。漆が全体に行き渡ったら、全体を均一にならして仕上げます。作業中は岡氏が見守っているので、わからないことがあれば気軽に聞くことができ安心です。
好みの色を組み合わせた、唯一無二のお椀を手に入れる喜び
制作するお椀の外側の色は、朱色または溜塗から予約時に選びます。内側の色は体験当日に選ぶことができ、朱色、黒、茶色、ベンガラ、緑、青、うるみなどがあります。乾いた時に落ち着いた色合いに変化するのを楽しめるのも、天然漆を使った体験ならではの魅力です。
好みの色の顔料を漆に混ぜて使う体験で仕上げたお椀は特製の箱に入れ、当日持ち帰ることができます。箱に入れたまま1週間経過すると漆が乾き、美しいお椀の完成です。
サンプルを参考に、お椀の内側の色は当日選べるオプション(有料)で箸やスプーンの漆塗りも体験することができ、お椀の漆塗りとあわせて楽しむのがおすすめ。箸の漆塗りはハケを使わず「拭き漆」という技法を用いて、お好みの長さに切った箸を研ぎ、漆を塗って布で拭きあげます。スプーンの漆塗りは、事前にベースのスプーンの色をベンガラまたは深草色から選びます。当日は持ち手側または先端側に朱、ベンガラ、青、緑、金のうちお好きな色を塗ることができます。
※スプーンの漆塗りは2025年8月の催行日からお申し込みいただけます。
漆で仕上げた箸は丈夫なうえに抗菌効果も期待できる(画像はイメージです)
持ち手または先端側に自分の好みの色を塗ることで、自分だけの特別なスプーンが完成(画像はイメージです)独特の艶や色合い、手に持った時の木のあたたかみなどが魅力の漆器。木や漆など自然に根付く材料を使い、手間暇をかけて作られる日本のものづくりの粋に触れる貴重な時間をお楽しみください。
漆を何度も塗り重ねて作り上げる唯一無二の作品