Otonami Story

2024.3.26

すべての植物が美しい。植物を愛してやまない少年は人々を魅了するアーティストへ。

Interviewee

ボタニカルアーティスト 谷井聖さん

「子どもの頃から植物が好き。ただそれだけで、特別な才能や目標がある少年ではありませんでした」。そう語るのは、ボタニカルアーティストの谷井聖さん。

百貨店や大手メーカーといった企業をはじめ、国の重要文化財やリゾートホテルなどの多彩な空間装飾の実績を持ち、花と植物による鮮烈なアレンジメントで花業界に新たな風をもたらしている注目の新鋭です。

商業施設のディスプレイ、広告撮影のスタイリングなど数々の経験を積み、20代で自身のブランド「bulbus」を立ち上げるまでに至った谷井さん。

挫折や葛藤を乗り越え、飛ぶ鳥を落とす勢いで頭角を現してきた若きアーティストの原点は、植物への愛と人々への深い感謝の念でした。その圧倒的な努力と躍進の“story”に迫ります。

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植物好きな少年が「花業界の新星」に

どこか無機質になりがちな空間を「花と植物」で彩る、ボタニカルアーティストの谷井聖(しょう)さん。その作品は、人の手によってデザインされながらも、まるで最初からそこに咲いていたかのようなありのままの生命力を感じさせます。

同じ花でもそれぞれ魅力的な生命であることに気付かされる

「既製品のような整った植物ばかりではなく、山から採取してきたシダやコケ、藤蔓(ふじづる)を花材にするなどの工夫をしています」と、独自の世界観を展開する谷井さん。植物が生き生きと躍動するような空間は多くの人の心をつかみ、花業界の新星として大きな注目を浴びています。

谷井さんの空間装飾作品。都会的な建物も自然の遊び場を思わせる雰囲気に

そのみずみずしい感性のベースはどこにあるのでしょうか。「花が好きな母と祖母の影響で、幼少の頃から植物に興味がありました。四国八十八ヶ所の最後の霊場がある香川県さぬき市で生まれ育ったこともあり、ショッピングモールもない、白装束のお遍路さんたちが歩くような里山が遊び場所だったんです」。自然そのものがフィールドだった谷井さんにとって、花を含めたすべての植物を好きになることは、ごく自然な流れだったようです。

挫折や葛藤を乗り越えて

花や植物が好きだったとはいえ、「職業にすることまでは考えていませんでした。勉強も苦手で、特別な目標もなく、高校進学時もなんとなく植物を学べる学校を選びました」と振り返ります。子どもの頃から苦手なことが多いと感じ、周りと同じようにこなせずに悩んだことも……。

真剣な眼差しが印象的な谷井さん

就職してからもフローリストとして植物に携わっていましたが、楽しいことばかりではなかったといいます。「あまりの仕事の不出来さに緊急会議が開かれたり、同僚に持論を押し付けて傷つけてしまったり……。失敗や挫折は数え切れません」と当時の葛藤を明かします。

一つひとつの植物の“顔”を探して、一番かわいく見えるように生けるそう

しかし、そんな谷井さんをあたたかく見守り、丁寧に育ててくれたのは、所属している会社の社長をはじめ、先輩、同僚など周りの人々でした。深い感謝の念、そして「ただただ植物が好き」という純粋な想いが、谷井さんを支えたのです。

すべての植物はありのままで美しい

「華やかな花も道端に咲く草も等しく物語があり、すべて美しい。その命の動きを濁りなく表現したい」。そう感じていた谷井さんは、世界的な花の巨匠であるフランスのフラワーアーティスト、クリスチャン・トルチュの作品と出会います。従来は脇役だった草木を積極的に取り入れたデザインと、幼い頃から自然に囲まれて育ち、その背景を誇りにしている思想に共鳴。「植物のありのままの美を表現していきたい」。彼との出会いを経て、さらにフローリストとして経験を積むほどに、強く思うようになっていきました。

植物は、種から発芽し、成長していく過程そのものが美しい

その気持ちを応援してくれたのもまた、スタッフそれぞれの個性ややりたいことを尊重する会社のスタンスだったといいます。谷井さんは応援に応えるためにも、花材やアレンジメントだけではなく、色彩理論、インテリアコーディネート、照明・空間など、幅広い専門的な知識の勉強とスキルの研磨を積み重ねていったのです。

植物の色や葉の巻き方、茎の曲がり方などを繊細に読み取ったうえでのデザイン

母の教えを大切に、自身のブランドを育てていく

あたたかい助けやご縁に恵まれた谷井さんは、2019年に自身のブランド「bulbus(ブルブス)」を立ち上げます。bulbusとはラテン語で“球根”のこと。「『球根の中にはすべてが詰まっている』という、母の教えの中で一番印象に残っている言葉から名付けました。今ようやく、ずっと大事にしてきた想いを形にできていると感じています」。

谷井さんの作品からは、“洗練”と同時にどこか“あたたかみ”を感じる

植物が好きだった少年は、その一点の曇りもない気持ちに従い、たゆまぬ努力を続け、いつしか新鋭のボタニカルアーティストへと躍進していったのです。まるで球根の中に秘められていたすべての可能性が成長して花開くように。「いつか美術館を装飾するという大きな目標に向けて、今はものづくりを心から楽しめています」。少年のような笑顔で話す姿が印象的です。 

「bulbusを大切に育てていくこと」が今後の課題と語る

フラワーレッスンは、自身の“好き”に気づく時間

植物に個性があるように、人にもそれぞれに個性があり、好きなことも千差万別。少しでも心が惹かれるものにトライして、自身の中に眠る可能性を花開かせるきっかけにしてほしい。そうした想いから、谷井さんは自身のホームグラウンドであるフラワーショップ「bois de gui(ボワ ドゥギ)」でフラワーレッスンを開催することに。

大阪・北浜にあるbois de guiは、カフェと花を同時に楽しめる人気店

Otonamiでの体験を通して、自身の“好き”に気づいてほしいといいます。「ひとつの植物をもう一歩深いところまで見て、それぞれのニュアンスを読み取る力を養うことを大切にしています。その体験が日常の物事の新たな気づきや違和感の発見につながり、暮らしが豊かに感じられるきっかけにしていただけたら嬉しいです」。

植物との触れ合いは自分自身を知ることにつながる

“好き”は、ほんのささいな感覚がきっかけで見つかります。Otonamiのフラワーレッスンで楽しみながら感性を育み、あなただけの球根を花開かせてみませんか。

bois de gui(ボワ ドゥギ)

大阪・北浜の土佐堀川沿いに佇むフラワーショップ。店舗販売をはじめ、ディスプレイ装飾やウエディングフラワーの制作、空間コーディネートなど多岐にわたる事業を行う。「BROOKLYN ROASTING COMPANY」の国内フラッグシップ店に併設し、カフェと花を同時に楽しめる人気店。

MAP

大阪府大阪市中央区北浜1-1-9 ハウザー北浜ビル 1F

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