Otonami Story

2021.03.29

飛鳥時代より続く伝統と共に、手仕事の情緒的価値を届けたい

Interviewee

有職組紐道明 道明葵一郎さん

「組紐は、人の手が絹糸を立体的に組むことで独特の手触りや風合いが生まれる、非常に情緒的な製品」。

そう語るのは、1652年の創業以来、飛鳥時代から続く組紐の技術と文化を受け継ぐ有職組紐道明の代表取締役、道明葵一郎さん。日本で独自の発展を遂げた組紐の魅力は、職人の手仕事ならでは。
「熟練の職人は、どんな長さでも、糸の締まり具合などを調整し、最初から最後まで同じ組目を保ちます。ただ、人の手が作り出すものである以上、ひとつひとつの製品に独自の表情があります」と、続けます。

その表情の違いこそ手仕事の証。人の手だから生み出せるあたたかさかもしれません。
道明では、古来から伝わる道具を使った組紐教室や体験も提供。実際に手を動かし、組紐を組んでいく体験に込められた”story”を語っていただきました。

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手の届く範囲で生み出される無限の可能性

「組紐は台も含めて、自分の手の届く範囲で最初から最後まで自分で組み上げることができるものです」。
その身近な距離感もまた、組紐体験の魅力だと道明さんは語ります。

組紐台の写真
組紐台

大掛かりな設備や装置がなくとも、手の届く範囲で作り上げることができる手軽さ。
それでありながら、日本の伝統色に染め上げた色とりどりの糸と組み方の組み合わせで、デザインは無限に広がっていきます。

道明では、絹糸を染め上げ、成形し、組み上げて製品を完成させるまでの工程を、すべて自社で行っています。それぞれの工程を熟練の職人が担当し、そのすべてが手作業。

色とりどりに染められる絹糸はあまりにも種類が多いため、レシピのようなものは存在しません。職人が積み上げた経験と技を駆使し、目で見て色を配合し、温度や時間を微調整しながら理想の色に染め上げていきます。

工房での染め作業の様子
工房での染め作業

道明は360年以上続く歴史のなかで、古くから受け継がれてきた組紐の技法や歴史の研究にも取り組んできました。同社には、正倉院に保管されている組紐の組織、色彩、形状をできるだけ忠実に復元、模造し再現したものなども保管されています。

復元してきた数々の組紐の写真
復元してきた数々の組紐

古来の技法を受け継いでいくことを大切にしながら、常に新たなチャレンジを続けるのが道明のものづくり。新しい組み方を取り入れた組紐のネクタイや、手軽に身に付けられるカラフルなアクセサリーも展開。いずれも海外の方からも人気の高い商品だそうです。

組紐を使ったネクタイの写真
組紐を使ったネクタイ
組紐を使ったピアス、イヤリングの写真
組紐を使ったピアス、イヤリング

組み台は、心を映し出す“鏡”

一見、規則的な動きの繰り返しのような組み作業。しかし、立体的で美しい均一の組み目を作り出すためには、常に糸を同じ強さで撚り(より)ながら組み進めていく必要があります。
リズムよく、静かに、丁寧に。道具が奏でるカラン、コロン、という音が心地よく響きます。

組紐体験では、手のひら2つ分くらいの円形サイズの組み台を使用。シンプルで美しい形をした台の表面は、糸の擦れや引っ掛かりを防ぐためにピカピカに磨き上げられています。そしてその表面は“組む人の心を映し出す”という意味合いもこめて“鏡”と呼ばれているそう。

艶のある組み台で糸を組みあげる様子
艶のある組み台で糸を組みあげる様子

「熟練の職人であっても、心が乱れていては美しい組紐を組むことはできません」と、道明さん。
その日の天気や湿度、糸の状態を注意深く観察して読み解き、全ての作品をムラなく美しく組み上げるのが職人の技ですが、心の状態を美しく保つということも、大切な要素のひとつなのです。

手仕事が生み出す個性とその価値

熟練の職人が手仕事で仕上げるものには、それぞれの表情があります。
「高い品質を保った上で、それでもどれひとつとして全く同じものは存在しない。世界でたったひとつだけの個性を楽しんでもらいたい」と、組紐の楽しさを語る道明さん。

インタビューに応じる道明さん
インタビューに応じる道明さん

また、「大量生産、大量消費が一般的になってしまった日本社会において、組紐の存在とその製造工程を多くの方に知っていただき、体験していただくことで、サスティナビリティといった側面においても手仕事の素晴らしさを再認識してもらいたい」と、少ないエネルギーで必要な量だけを作り出すというところにも、手仕事ならではの良さがあると考えているそう。

自分の手で組み上げる体験を届けたい

手を動かして何かを作るという体験は、現代では稀なことかもしれません。
「糸や道具の手触りを楽しみ、自分の心を見つめながら、ゆったりとした気持ちで組み上げていく。その体験を通して、手仕事によって生み出されるものの価値を体感していただきたいです」と、道明さんは体験提供への想いを語ります。

組み上がっていく組紐の写真
組み上がっていく組紐

1000年以上の時を経て、今なお人々の暮らしのなかに息づいている組紐。
新旧の技術と個性を取り入れる組紐処、道明で、実際に手を動かし、組んでいく体験を通して、手仕事で生み出されるものの価値を改めて感じてみてはいかがでしょうか。

有職組紐道明

創業1652年、上野池之端に店を構える組紐処。創業以来さまざまな組紐製品を手染め・手組みにて製作。江戸時代以来の武士による古典研究の流れも汲みつつ、明治以降全国的に散る歴史的な組紐の調査研究も重ねる。帯締、羽織の紐といった日常使いの紐から、非日常的な儀礼用の紐、そして洋装のタイやアクセサリーも取り扱う。

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