Otonami Story

2023.7.31

植物はコミュニケーションのツール。身近なものから植物をとらえて新しい表情を生む。

Interviewee

edalab. フラワーアーティスト 前田裕也さん

作家やアーティストが移り住み、おしゃれなスポットが増えている京都市北部の紫竹エリアにアトリエ「edalab.」を置く前田裕也さん。独創的なフラワーアートワークを生み出し、「花と人のコミュニケーションのあり方」を模索しているアーティストです。

カーブランド・LEXUSがプロデュースした情報発信拠点「INTERSECT BY LEXUS(東京)」や、国内外のクリエイターがデザインした京都のホテル「THE SCREEN」などでのワークショップを成功させた実績を持ち、店舗や施設の装飾、ブライダル、イベントを中心に活動。体験型の展示販売や異なる領域のクリエイターとのコラボ、「電子花屋」のオープンなど、その創作活動は多岐にわたります。

京都近郊の希少な植物や日本の固有種などにこだわりながらも扱う花材の種類はシンプルにし、どこか現代アートを思わせる雰囲気の作品の数々。小説家・安部公房の文学作品との出会いから人生が変わり、フローリストとして独自の表現を模索し続けている前田さんの“Story”に迫ります。

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多彩な色を駆使する花の世界へ

京都生まれの前田さん。幼少期から映画を観たりイラストを描いたりすることが好きだったそう。しかし10代の頃はとくに目標に向かって頑張ることなく過ごし、高校卒業後はアルバイトを続けていました。転機となったのは20歳の頃、小説家・安部公房の文学に出会ったこと。巧みに描かれる人間の深層意識や不条理な設定に、「言葉だけで紡がれた空想的な物語を目の当たりにして、こんな世界があるのだと衝撃を受けました」。

安部公房作品との出会いが、悶々としていた時期から抜け出すきっかけに

安部公房作品にのめり込むうちに、「イラストを描いたり絵本をつくったりする仕事をしたい」と思うように。しかし専門的な勉強をしていなかったため、“自分の武器”を身につけようと、多くの色を使うという共通点を花業界に見出して就職しました。「絵本も花も多彩な色を扱う世界。花屋の経験をイラストや絵本にフィードバックできるのでは」と、当時の前田さんは考えたのです。

アンスリウムだけで構成された、個性的な前田さんのアレンジメント

ブライダル装花の仕事で身につけた、“今”を支える技術

最初に就職したのは、いわゆる街の花屋さん。1年目は何もわからない状態で無我夢中でしたが、やがてデザイン性の高さや自分の表現を追求したいと思うように。ブライダル装花を手がける会社に転職し、約6年間勤務しました。

結婚式の裏側を支えた日々は、作り手として貴重な経験だったと前田さんは語る

「ブライダルの会社では、細かい技術まで徹底的に身につきました。今もイベントや結婚式などでつくる大きな植栽のヒントに生かされています」と前田さん。下積み時代の経験が、空間をより魅力的に見せる技術の土台となっているのです。

自由な活動や表現を求めて独立

就職当初に抱いていた絵本づくりの夢からは離れていきましたが、夢への通過点として選んだ花の仕事に大きなやりがいを感じはじめた前田さん。自分なりの解釈で行うクリエイティブに目覚め、もっと自由に活動したいと思い、2016年に独立。独立当初はギフトやマルシェへの出店なども行っていました。次第にイベントや企業からの依頼が多くなり、アートデザイナー的な視点を活かして空間演出を手がけるようになっていったといいます。

ストイックな姿勢と独自の感性から生まれるアートワークが支持されている

そんな前田さんの感性を刺激した経験が、20代前半の頃にありました。ブライダルの会社への転職前に敢行したイタリアでの滞在です。自由な表現と新たな文化を求めて興ったルネサンス芸術が息づくイタリアで、約1年間様々な作品に触れて感性を磨きました。代表作のひとつ「花面」が生まれたのもこの頃で、安部公房の作品「他人の顔」から着想を得たとか。アートの宝庫であるイタリアの街で、つくったお面をつけて歩いたのはよい思い出だそうです。

代表作の「花面」。オーダーメイドも受け付けている

なかでも印象に残っているのが抽象画。イタリアでは具体的に描く宗教画が中心でしたが、1900年代に登場した抽象画は斬新な表現法で当時センセーションを巻き起こしました。「そんな歴史を紐解くのも面白かったし、抽象画の色の扱い方は参考になりました。今も新しいデザインをつくるときは抽象画をイメージすることもあります」。

食や文学とのかけ合わせで新感覚の体験を生む

「前田のLaboratory」の語呂のいいところを組み合わせた「edalab.(エダラボ)」。アトリエ名にラボが入っているとおり、前田さんは実験的なイベントを数々手がけてきました。テーマのひとつが、食体験や文学作品など身近なものごとから植物をとらえること。2018年の自身初のエキシビジョン「百の植物片」では、京都の街を歩いて採集した植物片を瓶詰めの標本にして100本展示。「日常に潜む植物たちの肖像を丁寧に観察してもらいたい」との思いで開催されました。

「百の植物片」。各標本に採取地の座標を記載し、Google マップに打ち込むと探知できる仕組みになっていた

また、京都や大阪、東京で開催された「飲む植物園」ではドリンクディレクターとコラボレーション。展示された植物の中からハーブや食用花を自分の手で摘み、オリジナルドリンクをつくることで展示が変化していくインタラクティブアートを実現しました。シリーズ企画「制約の多い生花店」は、色が見えないように展示した花をシルエットで選ぶなど、毎回様々な制約の中で花と触れ合うイベント。いつもとは異なる花との出会い方を楽しむ企画は、前田さんのライフワークとなっています。

ドリンクディレクターとコラボレーションした「飲む植物園」

植物を通したコミュニケーションを模索

前田さんは常に、どうしたら植物が新しく見えるかを考えています。「かつて安部公房がインタビューで『人間の置かれている状況は認識ひとつでがらりと変わる』と話していました。そこで、人々の植物に対する認識を少しずらすことが必要だと思い、『制約の多い生花店』などを企画してきました」。Otonamiのプランも「視点や認識を少し変えて、花の魅力や花とのコミュニケーションを体感してほしい」との思いに突き動かされてスタートすることに。

いつもとは違う視点での花との出会いをつくり出す

最近は、花と人との新しい関係づくりのひとつとして、デジタルやAIと植物を組み合わせ3DCGで制作した電子花を販売する「電子花屋」をオープンさせた前田さん。「未来だけでなく過去にもアクセスしたい」と、百人一首などに登場する古来の植物を使い、長く続いている時間が感じられるアレンジメント体験を提供することも考えています。前田さんが見据える先にあるのは、「花と人とのコミュニケーション」。厳選された花材と向き合い、作り手の個性を表現することを体験できるOtonamiのプランで、ひと味違う花とのコミュニケーションの世界に触れてみてください。

edalab.

フラワーアーティスト・前田裕也氏が主宰する植物プロジェクトの拠点。2016年にアトリエを開設して以来、店舗や施設の空間植栽、ブライダル装花、イベントを中心に活動しながら、食体験や文学作品など周辺領域から植物をとらえる試みとしてアートワーク制作を追究。AIを駆使したアレンジメント作品の制作など活動の幅を広げている。「INTERSECT BY LEXUS」「THE SCREEN」「東京茶寮」「大阪ルクア」などでのワークショップ開催実績を持つ。

MAP

京都府京都市北区紫竹西野山町42-4

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