Otonami Story

2022.08.04

職人の想いを100年先まで届ける鎌倉彫。その可能性を信じ、新たな魅力を届けたい。

Interviewee

鎌倉彫 後藤久慶 後藤久慶(後藤慶大)さん

鎌倉にある鎌倉彫のギャラリー兼工房「鎌倉彫 後藤久慶」。人懐っこい笑顔で出迎えてくれるのは、三代当主・後藤久慶さん。鎌倉時代の仏師・運慶の二十九世孫にあたります。

鎌倉彫は、漆を塗り重ねることで100年先まで使うことができます。「作品を通して彫った人の想いが伝わるのが面白いんです」と後藤さん。先代や先々代の遺作からは、今でも学ぶことが多いと言います。

現在は仏具や調度品を制作する傍ら、アートユニット「雪乃福」や「eventum」を結成し、美術家としても活動。さまざまな表現方法を模索するなかで、「自分のやりたいことはすべて鎌倉彫にあった」と気づき、その魅力を精力的に発信し続けています。

いつか“自分はこの作品を作るために生まれてきた”と思える作品を作りたい。より深みを求める想いに至った、鎌倉彫の職人の“story”を紐解きます。

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先代を知る職人を訪ね歩く、修行の道のり

鎌倉時代の仏師・運慶の末裔であり、祖父の代から続く鎌倉彫の工房で育った後藤さん。幼い頃から、後を継ぐことを周りから期待されて育ちました。「若い頃は、鎌倉彫は古く地味なイメージがあった」と進路に悩む最中、先代であるお父様が他界してしまいます。

ギャラリー兼工房は、鎌倉・鶴岡八幡宮の三の鳥居からすぐ

急遽「鎌倉彫 後藤久慶」を継ぐことになり、仏教彫刻にも造詣が深い彫刻家・小畠廣志氏に師事。その後は、先代と共に仕事をした職人の元に通い、自身の作品を何度も見てもらいました。「漆塗りの職人は、私の木彫の表面を手で撫でて“お父さんの彫りはもっとやわらかかった”とぽつりと言うんです」。職人の世界で師匠を持たず技を磨くには、大変な苦労があったことがうかがえます。「先々代は仏像を彫る過程をわざわざ残してくれています。それは、後世に技術を伝えるためだったのだと思います」。後藤家代々の作品からは、今も学ぶことがあるそうです。

後藤家に伝わる代々の作品がずらりと並ぶギャラリー

アートを通して、鎌倉彫の可能性を再認識

10年ほど修行を積んだ後、美術家「後藤慶大」としても活動をスタート。彫刻や陶芸、金属造形などの現代美術家とコラボレーションし、定期的に展覧会を開催。「鎌倉彫をまったく知らない人にも見てもらいたい」との想いから、アートとしての鎌倉彫の形を模索しています。

異なるジャンルのアーティストたちと接するなかで、鎌倉彫に対する後藤さんの想いは徐々に変化。鎌倉彫で表現できる幅が広がり、「自分のやりたいことはすべて鎌倉彫にあった」と気付いたのです。

写真左のガラス皿は鎌倉彫を型取り作成。フォークとナイフが使えるよう、鎌倉彫を元に「鎌倉彫から生まれた硝子練り粉」シリーズの作品を発表

「アートとして鎌倉彫の見せ方を工夫すると、今までのイメージとは違ったものに見えてきます。暮らしになじみ、今の時代にも取り入れやすくなります」。見たり飾ったりして楽しむだけではなく、普段使いできることが魅力の鎌倉彫。過去のものではなく現代も使われるものであってほしいと後藤さんは願っています。

その人の想いを紡ぐ、鎌倉彫の魅力

鎌倉彫を多くの人に伝えるため、工房にて制作体験を開催する後藤さん。大切にしているのは、彫る題材を自分で考えてもらうこと。何を彫るのか考える作業は、自分の心とじっくり向き合う時間。自分にとって本当に大切なものを見つけるきっかけになるでしょう。鎌倉彫は、工芸品ではありながら、自分を表現するためのアートとしての側面もあるのです。

「鎌倉彫は彫った人の内面を感じられるのが面白い」と語る後藤さん

喧騒から少し距離を置き、彫る作業に没頭する時間は、思い出として心に刻まれます。「鎌倉彫の良さは、彫ったものを100年先まで使い続けられること。彫った時の想いを、使うたびに思い出せます」。その想いを、色褪せることなく次の世代にまで伝えられることも鎌倉彫の魅力です。

先代の鎌倉彫の作品。漆を何度も重ねることで丈夫になり、100年先まで使える

先祖から受け継がれる文化を、現代そして未来へ

運慶の二十九世孫にあたり、三代続く久慶の工房を受け継ぐ後藤さん。伝統文化を未来へつなぐという重責を背負い、これまでの道のりは決して平坦なものではありませんでした。師匠がいないなか多くの人の声に耳を傾け、今なお技を磨き続ける謙虚な姿勢には心を打たれます。「いつか“自分はこの作品を作るために自分は生まれてきた”と思える作品を作りたい」。そう語る後藤さんは、これからも妥協することなく高みを目指します。

伝統的な鎌倉彫からアート作品まで、後藤さんの作品を間近に見られる

鎌倉にある工房には、後藤さんの最新作をはじめ、先代や先々代の代表作などが展示され、ギャラリーとして一般公開しています。物腰やわらかな後藤さんに、作品に秘められたストーリーや想いを直接うかがってみてはいかがでしょう。今までとは違った鎌倉彫の新しい魅力を発見できるかもしれません。

鎌倉彫 後藤久慶

1972年、鎌倉生まれ。運慶の流れをくむ二十九世孫。彫刻家・小畠廣志氏に師事したのち、1998年に鎌倉彫 後藤久慶」を継ぐ。寺院の仏具や調度品の制作をはじめ、鎌倉彫の講演会や体験会も実施。また、美術家としてユニット「雪乃福」や「eventum」を結成し、各地で展覧会を開催。多方面で活動の幅を広げている。

MAP

神奈川県鎌倉市雪ノ下2-1-24

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