Otonami Story

2021.06.15

千年以上続く革新の結晶。心身華やぐ京和傘の世界へ。

Interviewee

株式会社日吉屋 代表取締役 西堀耕太郎さん

「合理的で全く無駄がない、千年の技術が凝縮された美しさ。それが傘の持つ魅力なんです」。
京都で唯一の京和傘製造元として美しい傘を生み続ける株式会社日吉屋。その当主である西堀さんは、傘の魅力についてそう語ります。
古来より、魔除けのほか、歌舞伎・日本舞踊などの装飾品として扱われてきた和傘。
「夜目遠目笠の内」という言葉があるように、所有者の魅力を引き立たせる存在としても愛されてきた歴史があります。

「美しい傘が開くことを、“傘の花が咲く”と表現します。竹の素材感や和紙から透ける光。自然素材から成る和傘が演出するのは、シンプルで日本らしい美しさなんです」。
身も心も華やぐ京和傘の魅力を、実際に傘を作る工程に参加しながら感じられる日吉屋の傘作り体験。そこに至るまでの“story”を伺いました。

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異業種から飛び込んだ、京和傘職人の世界

江戸時代後期に創業、160年以上の歴史を持ち京都で唯一の京和傘製造元となった日吉屋。その5代目当主である西堀さんですが、実はもともと職人を目指していた訳ではなく、海外留学後、和歌山で公務員をされていたそうです。「妻が日吉屋の人間だったもので、結婚する前に妻の実家へ足を運んだときに京和傘と出会いました。傘を目の前にして、なんてカッコいいんだと感動したことを今でも覚えています」

工房と販売所を兼ねた店内に並ぶ鮮やかな傘たち
工房と販売所を兼ねた店内に並ぶ鮮やかな傘たち

しかしその頃には、安価で大量生産される洋傘の需要に押される形で、先代が既に廃業を決めていたのだとか。「これだけ美しいものがもう世に出ないなんて、とてももったいないと思いました。グローバルニッチも含めて、ニーズは確実にあるはずだと。そこで、当時はまだ浸透していなかったインターネットを使った和傘の販売を提案したんです。前職でインターネットを使った観光業務を任されていた経験もあったので、その経験を活かして家業を手伝うことになりました」。

そうして販促を担っていた西堀さんですが、次第に自身でも傘を作ってみたいと思うように。「仕事を終えて和歌山から京都まで移動、製造工程をビデオを回しながら記録し、ビデオを見ながら傘作りを学ぶ日々を過ごしました」。

幼少より手先を動かすことが好きで、すぐに熱中したのだとか
幼少の頃から手先を動かすことが好きで、すぐに熱中したのだとか

EC通販への転身が功を奏し、国内外からの反響も高まった京和傘。家業が忙しくなったことから西堀さんは前職を退職、日吉屋へ入るも、同年に先代が亡くなったことから当主へ着任。キャリアを捨てゼロから職人の技術を身につけ、持てる知識で伝統を再興し、職人の道を歩むことに。京和傘との、激動で運命的な出逢いがそこにありました。

合理的で美しい、和傘の魅力

今日では当たり前のように指先ひとつで開閉ができる傘ですが、「その仕組みにこそ職人たちによる研鑽の歴史や傘の魅力が込められている」と西堀さんは語ります。

和紙に光が透け、蛇の目の彩りとコントラストが映える
和紙に光が透け、蛇の目の彩りとコントラストが映える

「閉じていると一本の棒のようでパッとしない傘が開いたときの美しさが、なんとも言えないんです。竹の素材感や和紙のコントラスト、光の透過具合、雨に打たれる油紙の音。日本らしい深い美しさが和傘には込められています」。

私たちが日常的に利用する洋傘が通常8本の骨組みから作られているのに対し、和傘は30~70本の竹骨から作られています。機械で大量生産ができる洋傘とは異なり、和傘は自然物のみで作られます。そのため、それを扱う職人たちの技巧の影には、我々には想像もつかない試行錯誤が重ねられていることでしょう。

和紙を貼る前の竹骨。いかに繊細で、素材をそのまま使われているかが伺える
和紙を貼る前の竹骨。繊細で、素材をそのまま使っていることが伺える

「今では当たり前とされている傘の開閉。自然素材だけで作られる和傘が、いかにして効率的に開閉できるかを職人たちが千年かけて考え、今の形に行き着きました。そうした歴史の末に行き着いた合理性。合理的なものはそれだけで華やかで美しいんです」と西堀さんは語ります。

グローバル老舗ベンチャーとして、革新を続ける

一代にして老舗和傘製造元を世界へと羽ばたかせた西堀さん。法人化する際に掲げた「伝統は革新の連続」という言葉が、今も原点にあるようです。「存在感があり見栄えはするけれど、やはり日常的に使うには洋傘の方が利便性が高いのが事実。それは和傘が商品として悪いのではなく、時代として外れてきたのだと感じています。だからこそ、新しい発想を取り込んでいこうと考えました」。

自身が日吉屋を継ぐ際に、「老舗というコンテンツを使ったベンチャー企業としてスタートし直す」と考えていた西堀さんはその後、和傘と同じ製法で作られた和風照明「古都里-KOTORI-」の開発・海外輸出や、国内外のデザイナーや建築家との共同制作商品の開発にも取り組み、和傘という文化を世界へと広めていきます。

和傘と同じ素材で作られている照明「古都里-KOTORI-」
和傘と同じ素材で作られている照明「古都里-KOTORI-」

「和傘を照明器具にしたのも、もう20年前のこと。さらに20年後にはこれすらも伝統工芸といわれていることでしょう。イノベーションを起こし続け、多くの方々に和傘を知っていただくことが、結果的に伝統を受け継いでいくことになると考えています」。

和傘を作っている組織は、全国でも10件あるかないか。「まずは和傘と出会い、知ってもらう場から作っていきたい」と語る西堀さん。今回の体験でも、触れることで感じられる和紙の質感や和傘の魅力に気づいてもらいたいと願っています。

この体験は「千年かけた技術の結晶」

体験プランのなかでは、傘の歴史についてお話を聞き、実際に竹骨に和紙を貼る工程を、西堀さんの指導のもと体験します。

和紙を一枚貼るにも様々な工夫が必要とされ、傘の奥深さを知れる体験となっている
和紙を1枚貼るにも様々な工夫が必要とされ、傘の奥深さを知ることができる

「進化論と同じで、古いものは淘汰されていきます。でも何百年と続いているものには相応の価値があるんです。もとは開閉もできない魔除けの道具から、雨具へと進化した傘のように」。和傘が生まれる工程に携わり、傘の形状の由来、糊の付け方といった深い魅力にも触れることで「日本らしい美しさにも気付いてもらいたい」と西堀さん。

「存在が美しい京和傘を通して京都を楽しんでもらいたい」と語る西堀さん
「存在が美しい京和傘を通して京都を楽しんでもらいたい」と話す西堀さん

「この体験は、千年以上続いてきた技術の結晶。今の時代の我々が和傘を身近に愛せるように、和傘と共に革新を続けていくことで、伝統をつないでいきたいと考えています」。洗練されたシンプルな美しさと、景色を彩る華やかさをあわせ持つ京和傘の世界。ぜひこの機会に、日吉屋で体験してください。

日吉屋

約160年続く京和傘の老舗処。生活様式の劇的な変化により「伝統工芸品」として扱われる和傘を、かつてのように日常生活で使いやすくなるよう「HIYOSHIYA Contemporary / 伝統は革新の連続」をコンセプトに、京和傘の技術や素材、構造を活かし、現代生活のニーズに合った商品を提案し続ける。

MAP

京都市上京区寺之内通堀川東入ル百々町546

Special plan