Otonami Story
2024.6.28
突き詰めることが禅の道への第一歩。経験を糧に伝えるお寺の価値。
Interviewee
法観寺 副住職 浅野俊道さん
地元の人も観光客も、多くが京都のシンボルとして思い浮かべる“八坂の塔”こと法観寺の五重塔。600年近く変わらないその姿を思い出に留めようと、季節を問わず大勢が東山へ足を運びます。
「日々多くの方が来られますが、お釈迦様の供養のための塔であることはあまり知られていないのが現状です。五重塔の本来の意味を知り、心から愛していただきたいと思っています」。
そう語るのは、法観寺 副住職の浅野俊道さん。境内を遊び場に五重塔を日常にあるものとして育ち、僧侶となってあらためてその価値に気づいたとか。
「悟りの道は文字によって伝えられるものではないという『不立文字』の言葉通り、経験してこそ分かることがあります。そんな禅の世界の入り口を分かち合いたい」。そこに至るまでの生い立ちや経験、修業時代の思い出などの“story”を語ってもらいました。
京都の風景に欠かせない“八坂の塔”がそびえる法観寺
京都屈指の観光エリア・東山。その風景に欠かせないのが、美しいシルエットの「八坂の塔」です。八坂の塔と呼ばれて親しまれる五重塔を有するのは、臨済宗建仁寺派の法観寺。その創建は古く、飛鳥時代の592(崇峻天皇5)年に聖徳太子によって開かれたと伝わります。五重塔の高さは約46メートル。1440(永享12)年に室町幕府の6代将軍・足利義教の援助によって再建されました。内陣には五智如来が安置され、重要文化財に指定されています。
そんな法観寺で生まれ育った副住職の浅野俊道さん。Otonamiのランチ付き特別拝観プランでは、通常非公開の内部を案内し、法観寺と五重塔の歴史にまつわる講和を行い、副住職だからこそ知る魅力を伝えています。また、同じ門派で京都最古の禅寺である建仁寺にもお勤めし、国内のみならず海外から訪れるゲストへの案内も担当。有名な双龍図の天井画や庭園の解説などを行っています。
境内を遊び場にのびのびと育ち、自然に仏の道へ
「小さい頃からこの境内で遊んでいたので、お寺は特別なものではなく身近な存在でした」と語る浅野さん。「俊道」という名前は浅野さんが生後3ヶ月の時に亡くなったおじいさまが付けたもので、「俊」は神仏のお使いの俊馬から、「道」は和尚を指す言葉です。「いかにもお坊さんの名前で子どもの頃は気に入らなかったのですが、歳を重ねると『よい名前ですね』と言われる機会が多く、祖父に守られているように感じています」。
お寺の手伝いはしていたものの、一つ年上のお兄さまも浅野さんも、お父さまの浅野全雄住職から「僧侶になれ」と言われたことはなかったそう。転機はお兄さまの高校卒業の際に開かれた家族会議。お兄さまは料理の道に進むことになり、「もし後継ぎがいなければ、ここを出て行かなければならない」とお父さまに言われた浅野さん。「生家がなくなるのは寂しいと感じて、継ぎます、と言いました。当時はまだ、法観寺のすごさを理解していませんでした」。
僧侶となり、お寺の価値を再認識
仏道に入り、京都を代表する寺院である法観寺、そして本山である建仁寺でも活躍する浅野さん。多くの観光客と言葉を交わす日々の中で感じたのが、「たくさんの方がお寺へ足を運んでくださるが、お寺の存在意義にまで思いを寄せている人はそう多くない。法観寺で言えば、五重塔は八坂の塔として東山のランドマークになっているにもかかわらず、そもそも何であるかを知っている人は少ない」ということでした。
五重塔は聖徳太子が夢で如意輪観音からお告げを受け、心柱の礎石に仏舎利(釈迦の遺骨)を納めて建立したと伝わっています。たびたび火災や落雷などで消失しましたが、都度再建され、東山の街を見守ってきました。街のシンボルとしてだけでなく、宗教的にも大切に守られ、今日も同じ場所に佇んでいるのです。
法観寺や建仁寺を特別拝観する体験プランが実現したのは、「お寺が長年存在している意味を、大勢の方に理解していただきたい」という想いから。訪れた思い出が一生の宝物となるようにと考えて、案内役を務めているそうです。
経験を糧に「生きる道しるべとなる時間」を提供
禅の話は難しいイメージがありますが、浅野さんの解説は分かりやすいと評判です。法観寺、建仁寺での特別拝観の価値を、「京都の地で歴史を紡いできたお寺について、“知る”という経験は大変貴重なものです」と語ります。
浅野さん自身、修業道場時代に知ることの大切さを学びました。「老大師によく言われたのが『ひとつになれ』という言葉でした。例えば、掃除の際にほうきと一体化した気持ちで取り組むと、どうしたらより効率よく綺麗にできるかを考えられるようになり、やがてその真髄が見えてくるようになります。私たちは物事の答えを簡単に出しがちですが、世の中には答えがひとつでないものがたくさんあります。突き詰めてゆくことが禅への第一歩であり、経験してはじめて分かることなのです」。
「解説では、私自身が学んだことや心にすとんと落ちた言葉などをお伝えしています。つらい出来事があったときに思い出してもらい、乗り越えるための選択肢のひとつになれば嬉しいです」。非日常の体験はいつか必ず人生に役立つと、浅野さんは考えています。
愛されるお寺を目指して伝え続ける努力を
浅野さんの原動力は、多くの人に京都のお寺を愛してもらいたいという願い。デジタル化が進んだ現代において広報活動にもさまざまな手法がありますが、自らの言葉で伝えることにこだわるのは、“お寺の本質的な存在意義への理解”を目指しているから。「どうしたら伝わるかを探りながら、布教の基礎をつくっていきたいと考えています」。
長年、京都の街で親しまれてきた法観寺と建仁寺。浅野さんの誘いで、観光スポットとしての姿だけではなく、その本質と存在意義にも触れてみてはいかがでしょうか。
法観寺(八坂の塔)
京都市東山区にある臨済宗建仁寺派の寺院。592(崇峻天皇5)年に聖徳太子が如意輪観音の夢告によって創建したとされ、仏舎利を納めて法観寺と号した。高さ約46メートルの五重塔は「八坂の塔」として広く親しまれ、東山の景観に欠かせない存在。1440(永享12)年に足利義教の援助で再建されたもので、重要文化財に指定されている。ほかに薬師堂や太子堂が残る。
MAP
京都府京都市東山区金園町400-1