Otonami Story
2021.04.05
変わりゆく時代に文化の魅力を。金箔に宿る誇りと輝きを届ける。
Interviewee
堀金箔粉 堀裕子さん
「世の中がどれだけ便利になって機械化が進んでも、手仕事の繊細さと輝きは無くならないでほしい」。
京都有数の老舗店のひとつで、豊富な金属箔粉素材を揃える堀金箔粉株式会社 取締役 堀裕子さんは想いを口にします。
国際的にも高い評価を受ける、日本独自の巧みな技と繊細な仕上がりの工芸材料は、職人の手仕事によって生み出され、継承されるもの。金箔の輝きもそのうちのひとつ。
「金箔を通して京文化に触れてもらうためには」と探るなか、ホテルカンラ京都とのコラボレーションで実現した金箔押し体験企画。そこに至った “story”を探ります。
京の街で310年、時代に即した多様な試み
堀金箔粉は創業1711年。徳川幕府の管轄下で、京都の金座付箔師(※)として金箔の製造を始めました。金箔製造の工程は非常に多く、日本独特。はじめに、金の延べ棒と微量の銀・銅を合わせ溶かして型に流し込み、固めたあとに叩き延ばしを繰り返す「澄み打ち」という作業。その後、ようやく箔打ち工程へと進みます。時間をかけて、職人が丁寧に1/10000mmの薄い箔へと仕上げます。数ある工程を重ねてようやく完成する金箔。そうしてできた金箔を美術・工芸材料として販売してきたのが堀金箔粉です。
※金の製造・販売を統制する場所の職人
「0.1gの商売」として絶対的な信用を第一に真摯に歩むこと310年。長い歴史のなかで、1955年には金閣寺の再建に携わり御金神社の象徴的な黄金の鳥居製作も手掛けるなど、“金”の素材メーカとして、京都府内の重要な文化財も彩ってきました。その後は、伝統産業にとどまらず、衣・食・住、現代アートなど、堀金箔粉は時代に即した幅広い産業を展開しています。
近年はこれまでの経験を活かし、金箔の輝きを追求した金色塗料や、金箔の施工ができなくても扱える金のクロスなど、金箔を軸に様々な商品も手がけています。
京都の文化を繋ぐ工芸の価値を発信する
堀金箔粉の金箔押し体験は、従来から付き合いのある顧客や地域の小学生に提供することはあったものの、大々的に行うことはありませんでした。製品づくりの本業にこだわる同社は「製品に磨きをかけるべき」という思想が根強く、観光産業に力を入れることは社の事業方針に合わなかったためです。 今回のホテルカンラ京都での金箔押し体験企画も当初は、積極的ではありませんでした。しかし、堀さんは「京都文化は工芸や芸術抜きには語れないもの。それらに欠かせない材料のひとつである金箔に触れてもらうことで、京都文化の奥深さを知るきっかけになるのでは」と問いかけ、堀金箔粉として材料の価値を発信することに可能性を見出し、企画は実現に向かいます。
協業を進めたホテルカンラ京都は、専修学校をリノベーションした、わびさびを感じられる空間が特徴。奥ゆかしい伝統と技術が潜む教育施設の名残から、教育や学びの要素も大切にしている宿泊施設です。
近年では、京都府が主催する工芸作品の展示販売会の会場として客室を提供するなど、職人の手仕事や、ものづくりを伝える事業にも取り組んでいます。このような取り組みのなかで、多くの人をおもてなしするホテルカンラ京都のコンセプトは堀金箔粉の想いと共鳴し、今回の体験企画が実現。同じ京都の街で、2つの事業者が手を取り合い、伝統工芸と歴史、文化への新たな視点となる金箔押し体験がスタートすることになりました。
“ほんまもの”の輝きと技術を体感する時間。
体験で使う金箔はプロの職人やアーティストが使用するものと同じ。その一枚は、多くの時間と複雑な工程を経てようやくできた”ほんまもの”の輝きを放つ技術の結晶。「金箔の繊細さと輝きに触れているうちに皆さん自然と笑顔になられます。体験を通じて、京都の文化や工芸品に興味を抱くかもしれないし、お寺の楽しみ方も増えるかもしれません。この体験が今までとは違う京都を味わうきっかけとなれば」。金箔に誇りを持ち、京の街に潜む数多くの金箔に気づいてもらえたらと話す堀さん。「訪れた10人に一人でも、身近に潜む工芸や芸術、素材の魅力に目を向けてもらえたら」そう続けます。
時代が進み、機械化されていく技術がある一方で、日本の工芸や芸術、文化に宿る材料と手仕事は、受け継がれ磨かれ続け、唯一無二の価値を生みだします。職人が一つひとつ手がけた品物には、機械でつくられたものにはない趣ある佇まいがみられるのではないでしょうか。
京文化の“ほんまもの”の輝きを体感する。京都の老舗・堀金箔粉が届ける文化と技術の魅力あふれる体験を、ホテルカンラでぜひ楽しんでみてください。
堀金箔粉
1711年(正徳元年) 徳川幕府下で金座付箔師として金箔製造を行なったことが始まり。300年の信頼を培う中で御金神社の鳥居をプロデュースする他、食用金箔「舞妓印」の開発、24K「黄金箔」製造に成功。文化財のみならず特殊印刷、建材や食品、美容等多岐に渡る場面で特別な輝きを届けている。
MAP
京都市中京区御池通御幸町東入大文字町 356