Otonami Story
2023.12.27
ガラスの中に広がる時間に想いを馳せて。素材の魅力と向き合い続ける研究活動。
Interviewee
iino naho glass gallery ガラス作家 イイノナホさん
光を透過して幾通りもの表情を見せるガラス。自然の素材であるガラスは、いわば私たちの生きる地球そのものであり、その中に「時間」を見いだすのだと、ガラス作家のイイノナホさんは言います。
「すべてものは溶けてガラスになる」という本の一節に感銘を受け作家活動を開始。以来、この不思議な素材を研究し続けてきました。
この透明なものは一体何なのだろう——。そんな問いに創作意欲を掻き立てられ、生み出される作品の数々。繊細な色彩が織りなす模様や、複雑な影を落とす形が、見る者をガラスの世界へと誘います。
自身の作家生活を“研究活動”にたとえ、「アーティストというか、研究者みたいなもので、答えがないんです」と話すイイノさん。きらめくガラスを覗き込んでみると、自問自答しながら活動してきた歳月の”Story”が見えてきました。
透明なものへの憧れと結びつき、ガラスの世界へ
北海道洞爺湖温泉町で生まれ、東京・新宿で育ったイイノナホさん。幼い頃から、プラスチックや飴玉など透明感のあるものに惹かれていたといいます。その憧れがガラスと結びついたのは、武蔵野美術大学彫刻科で学んでいたときのこと。ある本に書かれていた「すべてのものは溶けてガラスになる」という一節が心に響きました。
卒業後、現代アートの工房で働きながら様々な作家たちと交流を深めるなかで、吹きガラスの可能性に思い当たります。「溶けたガラスがふと自分の頭の中に浮かんで、“この素材、すごく好きかも”と思ったんです。そこで25歳の時、働きながら学校に通い始めました」。
まばたきもせずに学んだ、アメリカのスタジオ・グラス技術
3年ほど学校で学んだものの、技術不足を痛感したイイノさん。一念発起してアメリカ・シアトルのピルチャック・グラススクールへ留学することに。イイノさんが渡米した約30年前は、折しもスタジオ・グラスが爆発的に広まり始めていた時代でした。それまで工場の中でのみ扱われていたガラスが個人作家の手に渡り、アートの素材として用いられるようになっていたのです。日本には江戸切子のようなガラス工芸が存在しますが、スタジオ・グラス発祥の地であるアメリカではまったく異なる技術が発展していました。
「“ここで何か吸収していかなきゃいけない”と、すごく一生懸命でした。まばたきしないで勉強していましたね」と振り返ります。当時は海外のアーティストの作品の見様見真似でガラスを扱っていたイイノさん。しかし、どんなものを作っても「日本人らしく繊細で美しい」と評価されたそう。
「みんなの真似をして、同じような色を使っているのに、そう言われる。もしかしたら自分の中にナショナリティのようなものがあるのかもしれない。それなら日本に帰ってアーティストになってみようと思ったんです」。その後帰国したイイノさんは、1997年からガラス作家としての活動をスタートします。
ガラスの中に広がる「時間」を探求する
ニューヨークにある現代美術専門の美術館「ニュー・ミュージアム・オブ・コンテンポラリー・アート」のカフェにシャンデリア「バルーン(Balloons)」が採用されたことを皮切りに、国内外で様々な展示を行ってきたイイノさん。シャンデリアをはじめ、テーブルウェアやフラワーベースなど日常使いのものからアートまで、その作品は多岐に渡ります。
イイノさんの創作意欲を掻き立てるのは、「なぜこんなにガラスに惹かれているのか」「この素材は一体どういうものなのか」というシンプルな問いです。石や鉄と同様に自然の素材であるガラスは、ともすれば地球そのもの。素材の来歴を辿っていくと、宇宙的な時間の広がりを感じられるのだそうです。
作家としての活動を“研究活動”と称するイイノさん。「アーティストというか、研究者みたいなもので、答えがないんです」。ガラスの中に広がる時間や可能性をどうすればより美しく表現できるのか、絶えず研究を続けています。「作家自身としても完成していなくて、常に変化して、研究して、その連続。自問自答しながら生み出したものが、ただ単につながっている感じです」。
作家だけが知る、溶けて揺れるガラスの美しさ
ガラスは、粗雑に扱えば壊れてしまう繊細な素材。見た目に反して、制作過程は想像以上に過酷です。常に高温の炉の前で作業しなければならず、真夏は工房の室温が60度ほどにまで上昇することも。「体力も腕力も必要だから鍛えていますよ」とイイノさんは笑います。
過酷さを伴う一方、生き物のように溶けて揺れるガラスはとても魅力的で、作家にしか見られない美しさがあるのだとか。そうして形を与えられたガラスには、悠久の時間が閉じ込められているようです。
「この透明なものは何なのだろう」答えのない探求の旅へ
Otonamiでは、イイノさんの手ほどきのもと世界にひとつだけのアクセサリーを作るプランを展開。「なぜガラスに惹かれるのか……そんなことを共有しながら、ガラスの世界を一緒に楽しみたいですね」とイイノさんは話します。
「ガラスを見たときに、“ナホさんが言っていることって何なんだろう?”と少しでも思い出してもらえたら、また違う見方ができて面白いんじゃないかなと思っています」。イイノさんと共に楽しむワークショップを通して、美しいガラスの世界を旅してみませんか。
ガラス作家 イイノナホ
武蔵野美術大学彫刻科在学中にガラス素材に魅了され、卒業後に吹きガラスを始める。東京ガラス工芸研究所を経て、シアトルのピルチャック・グラススクールで学んだ後、1997年よりガラス作家として活動を始める。2007年には自身の工房「iino naho glass garden」を設立。アート作品のほか、シャンデリアやフラワーベース、茶器、アクセサリーなど、日常的に親しめる様々な作品を生み出している。2019年、東京・千駄ヶ谷にフラッグシップショップをオープン。
MAP
東京都渋谷区千駄ヶ谷5-3-14 グリーンパークマンション101