Otonami Story

2023.9.11

「植物料理」で魅せる四季の移ろい。祖母のもとで育んだ食への好奇心。

Interviewee

植物料理家きみえ 野田悠子さん

由緒ある社寺と豊かな自然に囲まれた北鎌倉にアトリエを置く「植物料理家きみえ」。主宰するのは、季節の鎌倉野菜やハーブを使った植物料理を提供する植物料理家・ 野田悠子さんです。旬の食材の組み合わせを楽しむ料理レッスンや、植物料理のコースをいただく食事会を主宰するほか、スイーツ作家とコラボレーションしたワークショップなども開催し、幅広く活躍しています。

屋号の「きみえ」は、幼い頃一緒に暮らし、野田さんが料理の道へ進むきっかけとなったおばあさまの名前に由来。「丁寧に食材と向き合い、ゆっくり時間をかけて料理をする祖母の姿勢が自分の中に息づいているようです」。旬の素材を大切にし、モダンながらあたたかみのある野田さんの植物料理は、多くの人を魅了しています。

フレンチシェフとしてのキャリアを経て、結婚・出産を機に自分だけの表現の場所としてアトリエを持つことに。幼い頃から料理人を夢見た野田さんの、今へとつながる“story”に迫ります。

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祖母の背中を見て育ち、料理人の道へ

東京で生まれ、神奈川・藤沢で育った野田さん。ご両親が共働きだったため、幼少期からおばあさまのきみえさんと一緒に暮らしはじめました。おばあさまの料理をする姿を見て育った野田さんは、自然と料理人を目指すように。「庭に生えているよもぎを摘んで、祖母と一緒によもぎ団子を作ったり、祖母の真似をして毎日卵焼きを作ったりしていました」と、当時を振り返ります。

幼い頃から料理をすることが身近だったという野田さん

好き嫌いなく食べることが大好きで、高校生の時から家族に手料理を振る舞っていたという野田さん。今でも毎年作っているおせち料理は、親戚から「きみえさんの味だね」と言われるそう。おばあさまの影響を強く受けた野田さんは、栄養士を養成する大学に入学。3年生からは料理を彩る仕事にも興味を持ち、フードコーディネートを学べる学校を掛け持ちしながら“食”に関する幅広い知識を身につけました。

フランスでの出会いから広がった世界

大学卒業後はカフェを運営する会社に就職。ほどなくして「自分でお店をやりたい」という気持ちが強くなった野田さんは、様々なお店を見て学ぼうと会社を辞め、フランスへと向かいます。そこでレストランで働いていたご主人と出会い、のちに日本で結婚。ご主人から「フランス料理のお店を開くからシェフをやらないか」と誘われたことがきっかけで、フレンチシェフの道に進むことになりました。

色鮮やかな鎌倉野菜の中には、普段あまり目にすることのない珍しい食材も

「フランス料理は独学で学びました。メニュー開発や素材の仕入れまで、1からすべて自分でやらなくてはいけない。毎日必死に経験を積み重ねていったような感じです」と、野田さん。「料理でうまく表現できない自分が悔しい」と、ご主人と共においしいレストランに毎週足を運び、食べたものを記録してアイデアをまとめたり、食べてみて興味を持った食材を仕入れて使ってみたりと、試行錯誤を繰り返す日々を過ごしました。

そんな手探りの状態からはじまった神奈川・戸塚のフレンチレストランは、今や10年以上の歴史を紡ぐ人気店へと成長。「フレンチシェフとして食材を研究した経験が、今の食材の組み合わせ方につながっていると思います」。

ライフスタイルの変化と“自分らしい表現”の追求

お子さんが生まれ、シェフという立場から料理を提供するサービスへとポジションを移行した野田さん。「子どもを育てていくうちに、自分の感性を伝えたいという想いが強くなってきたんです。フレンチレストランのコンセプトは主に夫が決めていたので、お店ではそれを支える立ち位置に徹し、ほかに自分だけの表現の場をつくろうと思いました」。

美しい盛り付けにも野田さんの感性が光る

お子さんを預けられるようになった頃に参加したワークショップが、野田さんの感性を刺激する出会いとなります。「野菜をそのまま盛り付けるような内容で、自分の中にある感性を野菜で表現することがとても面白かったんです。さらに器に物語があると、その人らしさが加わって表現したい輪郭がはっきりしてくる。少人数で行われていたことも、こういう形でやっていいんだ、と学びになりました」。大衆向けではなく、その場に集まった一人ひとりと向き合いながら丁寧に進行する野田さんの食事会のスタイルは、この時の気づきからインスピレーションを得たのかもしれません。

フレンチの技法を取り入れたオリジナリティあふれる植物料理

“自分らしい表現”を求め、最初はレストランの空間でアフタヌーンティーという形でデザートの提供を始めましたが、次第に「私にはデザートよりも料理での表現が合っているのでは」という想いが強くなり、食事会として料理を提供するようになりました。これと決めたらすぐ行動に移すという野田さん。アフタヌーンティーをはじめた半年後、屋号に自分の料理人生の原点であるおばあさまの名前を冠し、「植物料理家きみえ」をスタートさせたのです。

料理を通して四季を感じる体験

自然豊かな北鎌倉にある植物料理家きみえのアトリエ。実は、高校時代には通学で毎日見ていた風景です。当時は自然に対して特段思い入れがなかったそうですが、植物料理家として活動するにあたって「自然の中に身を置いて、日本の四季や植物について話す人になりたい」という想いから、真っ先に思い浮かんだ北鎌倉をアトリエの場所に選びました。

隠れ家のような雰囲気のアトリエ。広い庭にあるテーブルで料理をいただく

「毎日野菜に触れて仕込みをするうちに、野菜に対する愛が芽生えてきたんです。同じ野菜でも今日と昨日とでは違う、先週ともまた違うと感じるようになり、まるで人のように接するようになっていきました」と、野田さんは笑います。

Otonamiのプランでは、植物料理とあわせて野田さんがブレンドした自家製野草茶をいただける

「一つひとつの食材、一人ひとりのお客様に対して丁寧に向き合いたいという想いは、昔祖母と一緒に料理をした時に感じた、食材に対する愛情とつながるものがあると思います」。どこかほっとするあたたかさを感じる植物料理には、おばあさまから野田さんへ受け継がれた料理への真心が込められています。

北鎌倉から世界へ、植物料理を伝えたい

「世界の人が自分の表現をどう受け取るのかにすごく興味があります。例えば海外の方に来ていただくとか、もっと幅広く自分の表現を発信していきたいです」と語る野田さん。植物料理家きみえとして料理レッスンや食事会を主宰するほか、表現者として器作家と盛り付けのワークショップを開催するなど、その活動は多岐にわたります。

どこか懐かしい野田さんのアトリエで、植物を通じて季節に寄り添う豊かなひとときを

「田舎のおばあちゃんの家に遊びにくるような感覚でいらしてください」と野田さん。「自然は多くのものを無条件で与えてくれる存在。自然でしか癒せない部分を提供していきたいです」。野田さんは今日も、アトリエを訪れる人を優しい笑顔で出迎えます。

植物料理家きみえ

植物料理家・野田悠子氏が主宰する北鎌倉のアトリエ。フレンチシェフの経歴を活かした、植物の新たな可能性を引き出す料理が国内外で人気を集める。旬の素材の組み合わせを楽しむ料理レッスン「節気のアトリエ」や、野菜やハーブのコース料理を提供する「節気の食事会」を開催。

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なし

Special plan