Otonami Story

2021.04.23

新時代の清水寺。文化と真心の継承が安寧の時代を紡ぐように。

Interviewee

北法相宗 清水寺 執事補 大西英玄さん ※「英」は名刺上は旧字体

2020年12月に、約12年間もの長きに渡る「平成の大改修」が終了した清水寺。その新たな姿を一目見ようと、今も参拝客が絶え間なく清水坂の傾斜を上り、日本の四季の様相を楽しむ清水の舞台へと足を運んでいます。

「未来においても清水寺が必要とされるように、参拝いただいた皆様と これからの清水寺 をつくっていく。積まれた善意や真心を継承していける、思いを繋げられるような方々とお会いしたいですね」。

そう話すのは、清水寺執事補の大西英玄さん。大西さんによるご案内のもと、一般拝観では足を踏み入れることができない非公開区域への特別拝観。そこに行き着くまでに経た経験、修行、様々な“story”。その想いを紐解きます。

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1200年以上の歴史を誇る「観音さま」の霊場

音羽山 清水寺の開創は778年のこと。御本尊でもある「十一面千手観世音菩薩」いわゆる「観音さま」に手を合わせ、お参りする霊場として古くから庶民に親しまれてきました。国宝と重要文化財を含む30以上の伽藍(がらん)や碑が、13万平方メートルにも及ぶ境内に立ち並び、1994年にはユネスコ世界文化遺産「古都京都の文化財」のひとつとして登録されています。「平成の大改修」といわれた大規模改修工事も2020年12月に終わりを迎え、清水寺の新しい時代への第一歩が踏まれました。

平成の大改修を終えた清水の舞台の写真
平成の大改修を終えた清水の舞台

春は空を覆うような桜花が陽光で影を落とし、夏には満ち満ちとした新緑と蝉時雨、秋は燃え上がるような紅葉と夕焼けが世界を染め、冬には山を包む静寂と銀世界に包まれる……。清水寺がある音羽山は日本の四季の装いを纏い、古都に彩りを加えます。Instagramやホームページでも情報発信をし、若年層や海外の参拝客からの注目も集め、開創から1200年以上が経った現在、日本を代表する寺院として世界中から愛されています。

清水をめぐり一息をつく写真
清水をめぐり一息をつく。春の日差しが暖かい

非公開区域における特別拝観。絢爛で神秘的な世界へ

特別拝観では、重要なお客様のみをお通しする「迎賓殿」、四千体以上の四仏彫像が並び、仏足石を眺められる「多宝閣」、京都市や清水坂を一望できる「西門」、十一面千手観音立像の前立仏が祀られる「清水寺内陣」、そして「奥の院」という流れでご案内いただき、最後に「成就院」にて四季折々の姿を楽しめる 月の庭 を眺めながら、静かなひと時を過ごします。

普段は足を踏み入れることができない清水寺内陣の様子
普段は足を踏み入れることができない清水寺内陣の様子

「特別拝観のなかで、おこがましくも“何か教えを説く”ということは露ほども思っていません。私自身が学んだことや知り得たことを共有することで、少し元気になったな、イライラしていた心が穏やかになったな、と思っていただきたいと考えています。“こんな人に来てほしい”というよりは、いろいろな人に来てもらって“来て良かったな”と思ってもらいたいです」。

特別拝観の価値をこちらから提示するのではなく、「何を価値とするかを参加者の方に委ねる」。これは清水寺の、宗教を問わず遍く広い人々を受け入れる姿勢にも通ずるものがあります。

自然に囲まれた綺麗な空気の中でゆったりと法話に耳を傾ける様子
都会の喧騒から離れ、自然に囲まれた綺麗な空気の中でゆったりと法話に耳を傾ける

一本道から少し逸れたからこそ迷いが晴れ、今の道へ

「私世代の和尚は私を含めて4名おります。他の3名は比較的この道につくことに迷いがなかったように思います。しかし私の場合、稚拙ながらもっといろいろなことをやってみたいと、関西大学で広告について学び、卒業後には留学の機会もいただきました」と大西さんは過去を振り返ります。

「留学仲間には、生涯狂言の道につくために1年間狂言から離れることを決めた方、大手企業の会長のお子さんでご自身で起業された方がいました。彼らの、自分の道を選ぶ考え方に感銘を受け、自立できていない自分と向き合いながら胸にある違和感を消化し、留学を終えてから加行を経て寺へ戻ってまいりました」。

清水寺内陣に響くお経を少人数で聞く様子
特別拝観では、清水寺内陣に響くお経を少人数で聞くことができる

「仕事に優劣はなく、どのような仕事も大きな意味では一緒。『面白くない仕事があるのではなく、面白くなく働く人がそこにおるだけや』と私もよく聞かされておりました。今は迷いがないからこそ、私もそう思います」。学生時代に学んだことや経験から、清水寺を次世代へと導いていく。大西さんが歩んできた迷い、それを切り拓いてきた思考との邂逅があるからこそ、今回の特別拝観が実現したのかもしれません。

大西さんの写真
「普段はあまり過去のことを深く考えないのですが」と話す表情からも大西さんの人柄がうかがえた

真心の継承の果てに、より良い社会を目指す

「強いていうならば、『世の中良くしたいけど1人の力ではどうすることもできない』と悩む方ともお話ししたいです。そういった方々の善意や真心を継承していくことで、10年20年先にはその時代の方々が願いを叶えてくれているかもしれない。ええ話聞いたな、ええ体験したな、で終わるのではなく、周りの誰か1人にでも気持ちを伝えて、思いを共に繋いでいけるような方とお会いできたら嬉しいです」と大西さんは話します。

手を合わせる様子
作為的なものを超えたご縁の導きによる出会いを大切にしたい、と手を合わせる

改修を終えた清水寺を新しい時代へと、参拝者の方と一緒に導いていきたいと願う大西さん。文化と歴史に触れ、真心を紡いでいく体験を、ぜひご堪能ください。

音羽山 清水寺

京都府京都市に位置し「清水の舞台」で知られる寺院で北法相宗の本山(一寺一宗)。山号は音羽山。「古都京都の文化財」の一部として世界遺産にも認定されており、連日多くの人々が参拝に訪れる。

MAP

京都市東山区清水1丁目294

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