Otonami Story

2022.09.29

古典がむしろ新しい。懐石料理で軽やかに伝える日本文化。

Interviewee

真砂茶寮 入江延彦さん

横浜・関内にのれんを掲げる「料理屋 真砂茶寮」。数寄屋造りの一軒家で20年以上腕を振るうのは、大将の入江延彦さんです。“関東のお伊勢さま”として知られる伊勢山皇大神宮の料理番として活躍し、過去には5年連続で『ミシュランガイド』二つ星を獲得したことのある実力の持ち主です。

しかし、そんな輝かしい功績とは裏腹に「お客様がお皿の上の料理だけを見て、おいしさだけを求めに足を運ぶことはやるせない」と入江さんは話します。追求するのは、おいしさだけではなく、料理を引き立てる器やお客様の来店用途に合わせた部屋のしつらえ。こだわりの掛け軸や生け花が、大切なひとときを彩ります。

Otonamiの体験プランでは、懐石料理店ではなかなか聞けない料理やしつらえについての詳しいレクチャーも、入江さんから直接受けることができます。これまでの“story”をのぞいてみると、「料理人として日本文化の面白さを伝えたい」という想いの源泉が見えてきました。

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大神宮の台所で培った、お客様をおめでたく迎える心構え

入江さんの料理人人生は、伊勢山皇大神宮から始まりました。ケニアの首都・ナイロビに4年間留学し、あらためて日本の良さを感じたことで、とことん日本料理を追求しようと選んだ場でした。大神宮の台所で手がけるのは、ほとんどが祝いの席の料理。「いかにお客様をおめでたく迎えるかを考え続ける日々でしたね」と入江さんは言います。おいしいものを早く提供する、安く仕入れて集客する……といった飲食店の概念とはかけ離れた、ある意味特殊な環境だったそうです。

大神宮での修業期間に、料理人としての理念が形成されたそう

修業を終えた入江さんは、横浜市港北区ではじめて自分の店を持ちます。オープンした居酒屋食堂は地元民でにぎわう人気店に。しかし次第にお店の親しみやすさに甘えるお客様が増え、まるで公民館のような空間になってしまったそう。危機感を覚えた入江さんは、再起のために大胆な方向転換を試みたのです。

洒落心で乗り越えた店の窮地

入江さんが講じた策は、毎日気軽に通える居酒屋食堂を、大切な日に利用したいコース料理店に衣替えすることでした。店名には「nouvelle cuisine japonaise(新しい和食)」とフランス語でショルダーネームも。「変化を洒落で伝えようと思って」と楽しげに語ります。

お店は、珍しい和のコース料理を食べてみたいと、東京や鎌倉方面から足を運ぶお客様でいっぱいに。「当時の日本料理には儀式やかしこまった席で食べるものといったイメージがありました。よりおいしく楽しく食べてもらう方法を、自分なりに工夫しました」。

民家として建てられた2階建ての一軒家。「いつかここで店を」と、密かに空くのを待っていた

常連客の支えもあり、関内に2店舗目を展開したのは入江さんが37歳の時。「料理にはnouvelle cuisineの要素を残し、店内もモダンな雰囲気に統一しました。日本人が外国の真似をしたような、大正浪漫の遊び心を取り入れて」。大盛況となったお店の離れとして使っていたお気に入りの数寄屋造りが、現在の「料理屋 真砂茶寮」です。

探求の先に気がついた、古いものの新しさ

2店舗の経営を通じて、入江さんは様々な角度から日本文化を見つめてきました。「真砂茶寮では、nouvelle cuisineや大正浪漫は一掃しました。結局、古典がもっとも新しいと気がついたんです。日本には古い歴史が山ほどあるから、わざわざ創作しなくてもいい。そのまま現代に持ってきてもかっこいいんですよね」。

料理人から直接解説を受けられる機会はそうそうない

真砂茶寮でいただけるのは、旬の素材を取り入れた懐石料理。入江さんの料理のルーツとなっている“ハレの日”にぴったりの品々が並びます。料理を引き立てるのは、一品一品に合わせて選ばれた器。訪れる人をイメージしてしつらえた掛け軸や生け花にも注目してください。Otonamiの体験プランでは、お食事の後に季節の練り切りを手づくりし、盆略点前で点てたお抹茶と共に味わいます。「細かいことは気にせずに、しきたりを楽しむことから日本文化に触れてほしいと思います」。

入江さんレクチャーのもと作った練り切りと、自分で点てたお抹茶のおいしさは格別

ここで日本文化を楽しむきっかけをつかんでほしい

「『ミシュランガイド』で星をいただいてから、“おいしいもの屋さん”として見られることが多くなりました」と振り返る入江さん。おいしさを評価される喜びはあっても、懐石料理を介した文化伝承ができていないもどかしさがあったそうです。

入江さんの軽快な語りで、日本文化の世界へと惹き込まれる

だからこそ、Otonamiで企画したプランは、入江さん自身が気づいた日本文化の奥深さを、料理と体験で表現する絶好の機会と捉えているそう。「“察する美徳”は日本の素晴らしい文化ですが、言わなければわからないこともある。お客様のお誕生日と聞いて鶴の柄の器を選んでも、気がついてもらえなければ意味をなさないんです。でも伝わった時には、お料理がもっとおいしくなるでしょう。かしこまることなく、日本文化を楽しむヒントを伝えていきたいです」。プランをスタートしてから、文化的側面から日本料理を作り続けている意識が強くなったそう。入江さんの新たな挑戦が始まっています。

真砂茶寮

伊勢山皇大神宮の料理人として日本料理を極めた入江延彦氏が、横浜・関内で営む日本料理店。肩肘張らない雰囲気のなかで、旬の食材を使った本格的な懐石料理を味わえる。器の一つひとつ、掛け軸や生け花などのしつらえにも大将のこだわりが光る。

MAP

神奈川県横浜市中区真砂町2-16

Special plan