Otonami Story
2023.11.14
日本のサービスマンとしての信念を胸に。逗子の現代茶室から感動体験を生む。
Interviewee
逗子茶寮 凛堂 -rindo- 店主 山本睦希さん
コーヒー文化が根強い湘南・逗子で暖簾を掲げる「逗子茶寮 凛堂 -rindo-」。お茶を淹れる技術と表現力を競う大会「淹茶選手権 2023」の優勝者・山本睦希さんが営むモダンスタイルの茶寮です。オーシャンブルーの茶器やカクテルグラスが並ぶ店内では、かつてないお茶の楽しみ方を提案。その個性的な存在感を、作法が重んじられる伝統的な茶室に対し「現代茶室」と例えます。
夜はバーへと様変わりする「凛堂」。実は山本さんは長くソムリエとして活動していました。淹茶の技術にもその面影を感じます。
淹茶師、茶人、元ソムリエ……様々な肩書きを正解としつつも、山本さんは自身を“日本のサービスマン”と表現します。そこに込められた想い、そして人生のターニングポイントなど、これまでの歩みを振り返ります。
酒どころの母・茶どころの父の元に生まれる
お母さまの故郷である京都・伏見に生まれた山本さん。周囲はいわゆる「酒どころ」でした。一方お父さまは、歴史ある「茶どころ」宇治の出身。これまでの人生を振り返ると、こうした両親の元に生まれたことに運命を感じると山本さんはいいます。「実家ではいつも祖母や母が急須でお茶を淹れてくれて、山本家オリジナルのブレンド茶もありました。当時は何も考えずに飲んでいましたが、贅沢な環境にいたんだなと、今は感謝の気持ちが湧き上がります」。
人と接することが好きだった山本さんは、高校卒業後は保育士を目指して京都の専門学校に入学。しかし、卒業を目前に京都を離れ東京へ。学費を稼ぐ目的に過ぎなかったバーやレストランでのアルバイトで、飲食業の魅力に目覚めたのです。「極めるところまで極めたらいい仕事になるんじゃないかと、勝手に良いビジョンが湧いてきたんです。親には申し訳ないと思いつつ、東京へ修業しに行きました」。
フランス人からの問いかけが日本文化と向き合うきっかけに
東京では、洋食・フレンチ・イタリアンなどの様々なレストランで、ソムリエとして修業する日々を送ります。店を訪れるゲストには経営者の方が多く、その佇まいに影響され「いつか自分のお店を持ちたい」という感情も芽生えていきました。そんななか、研修で訪れたフランスでの出来事をきっかけに、日本文化と深く向き合うこととなります。
「現地のソムリエから、こんな質問をされたんです。“僕らフランス人は自国のワインが一番だと思っている。だから当然、ワインリストも全部フランスのもの。イタリアもポルトガルも、他国のワインに触りたくないという人もいるくらい、自国のワインにこだわりがある。でも日本人はなぜ、胸を張って外国のワインをおすすめするのか?”と……」。問いにうまく答えられなかった山本さんは、あらためて日本の価値やあり方を考えるように。それ以降、「日本文化にもっと焦点を当てたい」「日本のサービスマンにしかできないことを極めたい」という、現在につながる人生観が生まれました。
その後機会に恵まれ、日本茶に関わる仕事を任された山本さん。あふれんばかりの学習意欲を注いで、お茶の世界へと深くのめり込んでいきました。
「今だからこそ」の想いで逗子茶寮 凛堂をオープン
「日本文化に焦点を当てたい」。そんな想いが形となり、2021年に逗子茶寮 凛堂 -rindo-を開業。伝統的な茶道や煎茶道をリスペクトしながらも、山本さん独自の経験と感性を活かした新たな茶文化を提案する「現代茶室」として歩み始めました。コロナ禍での開業には、失われかけた「食の楽しみ」を再加熱させようとする強い決意が表れています。
活動拠点は神奈川・逗子に。「好きだと思う場所で店を開きたい」「お茶になじみのない場所で、茶文化を広めたい」という想いに導かれるように物件と巡り合い、「呼ばれたのかな?」と山本さん。さらに、凛堂の店主として挑んだ大舞台「淹茶選手権 2023」では見事優勝。2煎目のお茶を提供する際に、スプレーボトルに入れた1煎目を吹きかけて旨みを強調するなど、審査員が驚く圧巻のパフォーマンスを披露しました。そこにはまさに“現代茶室”としてのこだわりがあります。
「突飛な方法について批判されるかと思いましたが、優勝して驚きました。でも“現代茶室”を掲げた店だからこそ、従来のお茶の淹れ方以外の楽しみ方や、お茶そのものの可能性を見いださないと意味がない。そこから感動体験をお届けしたいという気持ちを抱いています」。
現代茶室のお茶とアフタヌーンティーを楽しむ
Otonamiでは、山本さんの華麗なる所作によって淹れられたお茶をいただきながら、二十四節気をテーマとする和のアフタヌーンティーを味わい、日本茶講座を通して学びを深める限定プランを開催。日本茶に関心を持つゲストたちが続々と訪れています。
「“もっと知りたい!”とおっしゃる方もいて嬉しいです。知っているようで知らない、ということがお茶の面白さ。意欲的に学んでくださる姿勢に、僕たちも刺激を受けています」。
“いざという時にできる”サービスマンを目指して
ご自身を「ただのサービスマンです」と表現するのが山本さんの流儀。そこにはどんな想いが込められているのでしょうか。「サービスマンと名乗るのは、昔からのポリシーです。意識しているのは“いざというときにできる”人間になること。海外からのゲストがいらした時に、日本のお酒やお茶のことを知っているし、目の前で練り切りを作ることもできる。そんな日本人ならではのおもてなしができるサービスマンでいたいんです」。
山本さんの情熱の先には、「凛堂」が将来的に店名を超え、穏やかな気持ちや心豊かになることを指す日本らしさを象徴する言葉のひとつになれば……という大きな目標があります。そのためには、まだまだ自己研鑽が必要だと語る山本さん。大志を抱く日本のサービスマンの挑戦は始まったばかりです。
逗子茶寮 凛堂 -rindo-
神奈川県逗子市「亀岡八幡宮」の向かいの建物にある茶寮。亭主の山本睦希氏は「淹茶選手権 2023」にて最優秀淹茶賞を受賞。「現代茶室」をコンセプトに、茶の湯の精神を重んじながらも型にとらわれない手法や食材を取り入れ、全国より厳選した日本茶と、お茶に合わせた季節の上生菓子を提供する。日中は茶寮、夕方からは地酒を愉しめるバーへと移ろい、その表情を変える。
MAP
神奈川県逗子市逗子5-1-12 カサハラビル逗子B 2F