Otonami Story

2023.2.24

糀の魅力を再発見。生活に取り入れ、健やかに暮らす方法を伝える。

Interviewee

sawvi(ソウビ) 店主 寺坂寛志さん

日本に古くからある発酵食品のひとつ、甘酒。なかでも糀と水だけで作られる元祖甘酒こと「甘糀」は、アルコールを含まず、子どもやお酒が弱い人も飲むことができます。

「“飲む点滴”といわれ、美容・健康効果があるとされる甘糀を、物心ついた時から毎日のように飲んで育ちました」。そう話すのは、奥鎌倉で糀屋「sawvi(ソウビ)」を営む店主・寺坂寛志さん。店名は「装備」に由来し、「糀を身につけ、備えてほしい。生活に取り入れてほしい」という願いが込められています。

ご実家は福井県の米農家で、収穫した米から糀を作ります。幼い頃から糀を甘糀として飲むだけでなく、味噌づくりの材料や調味料としても親しんできたのだとか。

特別なものではなく、身近なものとして捉えているからこそ見えてくる糀の魅力。幼少期から自然と生活に取り入れてきた寺坂さんが語る“story”には、「糀の文化を広めたい」という願いが潜んでいました。

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海外生活を経験し、糀の魅力を再認識

幼い頃から姉や弟と一緒に家業の米農家を手伝っていたという寺坂さん。ご実家では米の生産とともに糀も製造していますが、現在、米農家が糀屋を営んでいる例は全国的に見ても少ないそうです。家族で大切に育てた糀と水から甘糀を作り、毎日のように飲んで大きくなったのだとか。「今でも、疲れが溜まった時には朝一番に飲みます。そうすると力が出るんです」と微笑みます。

寺坂さんの実家で作った生麹。特別栽培コシヒカリが使われ、味わってみるとほんのり甘い

転機は25歳で訪れました。「跡を継ぐにしても継がないにしても、外に出て経験を積みたいと思ったんです」。カナダのトロントに留学し、ジョブオファーを得て就労ビザを取得。サービス業マネジメントに携わりました。言語も文化も働く業種も全く異なる環境のなかで、日本での家業について説明する機会がたびたびあったといいます。「様々な国の人がいましたが、みんな日本独自のものとして糀に強い興味を示してくれました」と寺坂さん。

糀の量を倍にした本格醸造倍糀味噌。出汁を取らなくても味噌汁に旨みが出る

新たな用途を提案し、糀の文化を広く発信

日本を出たことで糀の魅力を再認識した寺坂さんは、「糀の文化を広めよう」と決心。30歳を目前に実家に戻り、本腰を入れて糀について学び直しました。そして2018年、満を持して奥鎌倉にsawviをオープン。

店舗があるのは、奥鎌倉と呼ばれる自然豊かなエリア

sawviでは、現代のライフスタイルにも取り入れやすい、糀の幅広い使い方を提案しています。糀を用いた料理やデザート、ドリンクを提供するカフェを併設するほか、公式サイトでは糀を活かしたレシピも公開。「お客様の中には、お目当てはカフェで提供しているパフェで、店に着くまで糀屋だとは知らなかったという人も」。来店をきっかけに糀のある生活を始めたという人も多く、「それがとても嬉しい」と語ります。

カフェでいただける料理。味噌汁はもちろん、唐揚げやサラダのドレッシングにも糀が使われている

糀を通して、自分の体と向き合う

材料や製法が変われば、糀の出来上がりは千差万別。「店によって個性が分かれるのも糀の面白いところで、甘みが強いもの、香りが立っているもの、穏やかな味わいのものなど、様々な個性があります。だから、『うちの糀が一番』とは言いません。食べ比べて、自分好みのものを見つけてほしい」。その言葉に、寺坂さんの糀に対する熱意が垣間見えます。

糀と水のみで作る甘糀は、甘みを加える調味料としても活躍

Otonamiの体験も、糀を知るきっかけのひとつとして開催。寺坂さんはいつも冒頭で、参加者にスプーンひとさじの甘糀を味見してもらいます。「甘い」と言う人、「ほんのりいい香りがする」と言う人、コクや旨みを実感する人など、そのリアクションは十人十色。「コンディションによって感じ方も変わる」といい、こうして感覚を働かせるひとときは、自分の体と向き合う時間でもあります。

Otonamiの体験では倍糀味噌作りも楽しめる。世界にひとつだけの「手前味噌」の味は格別

人から人へ伝わり、未来へと続く糀の物語

「実家の米農家は弟が4代目を継ぎ、姉は母の糀屋を手伝っています。両親は自分たちの代で終わらせてもいいと思っていたようですが、みんな好んでこの道を進みました」。今も頻繁に連絡を取り合い、互いに情報交換と知識の更新を欠かしません。寺坂さん自身も店を続けるうちに仲間が増え、ワークウェアのブランドを立ち上げたり、糀スイーツや米粉パンの開発などに携わったり、作家と共同で展示を行ったりと、多角的に発信を続けています。

学校や保育園に出張し、子ども向けのワークショップを行うことも

「日本で生まれた糀の文化が世界中に広がって、どこか遠い国の私の知らない町に小さな糀屋さんができる。そうやって糀屋を世界中に広めていくのが今の夢です」。そう話してくれたときの寺坂さんの表情は、「夢」と言いながらも確信に満ちているように見えました。sawviが紡ぐ糀の物語は、これからも続きます。

sawvi(ソウビ)

米農家で生まれ育った店主が、2018年にオープンした麹専門店。カフェを営む傍ら、オリジナルの甘糀や味噌、材料の生糀を販売する。ギャラリースペースでは、デザイナーとアイデアを出し合って作った、普段着として使えるおしゃれな農作業着の展示販売も。日本の古きよき糀の文化を現代風にブラッシュアップし、広く伝えている。

MAP

神奈川県鎌倉市浄明寺5-6-1

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