Otonami Story
2024.4.16
自分だけのストーリーを描き出す。五感で感じる器の世界。
Interviewee
SIONE ブランドデザイナー・陶板画作家 SHOWKOさん
京都出身の陶板画作家・SHOWKOさんが手がける器のブランド「SIONE」。白磁に金彩で施す美しく繊細な文様を特徴とし、“読む器”というコンセプトのもと一つひとつの器にストーリーを込め、五感で楽しめる仕掛けを散りばめています。
「言葉や音など様々な表現を器に取り入れ、物語を感じられるよう工夫しています」。SHOWKOさんならではの感性やアイデアから生まれるSIONEの器は、国内外で高い人気と評価を得ています。
実は京都で330年続く茶陶の窯元「真葛焼」に生まれながらも、大人になるまで焼き物とは無縁の世界で育ちました。作家としてだけではなく、文筆家やアーティストとしても幅広く活動し、注目を集めるSHOWKOさん。現在に至るまで、表現の可能性を追求し続けるSHOWKOさんの“Story”に迫ります。
陶芸は“どこか遠い世界”だと感じていた幼少期
京都・東山で330年余り続く伝統工芸・清水焼の窯元「真葛焼」に生まれたSHOWKOさん。幼い頃から父や祖父がものづくりに取り組む様子を間近で見て育ちました。ただ、以前の窯場は女人禁制のルールがあり、母の時代は立ち入ることはできなかったそう。
今でこそ女性の陶芸家は増えましたが、伝統を守り続ける当時の窯元では男性が継ぐものという厳しい線引きがされていました。「私の時代では、祖父に粘土で食器をつくらせてもらうこともありました。粘土がただの粘土ではなく、窯で焼くなどいろいろな過程を経て家庭で使える食器になります。そのことを実際に体験させてもらったのは良い経験でした」と当時を振り返ります。
幼い頃から手先が器用で、絵や工作が得意だったSHOWKOさん。小学校でつくった作品は、今でもお母様が大事に残してくれているそう。「褒めてもらって嬉しかったのを覚えています。絵を描いたり、ものをつくったりするのがずっと好きでした」。
しかし、ものづくりに興味がありながらも、実家の窯元は男性である兄が継ぐことが決まっていたため、両親からは陶芸以外の将来を期待されていたといいます。「今考えると、両親は苦労もあったからこそ、私には他の道に進んで欲しいという思いがあったのかもしれません。当時は、陶芸はどこか遠い世界のように感じられましたね」。
焼き物への想いを胸に、佐賀県へ。自然と触れ合い磨いた感性
SHOWKOさんに転機が訪れたのは、大学卒業後のこと。家族ぐるみで仲が良かった友人の父親に「実家が窯元なのに、学ばないのはもったいない」と言われたことがきっかけで、純粋な焼き物への想いが目覚めます。SHOWKOさんは一念発起し、陶芸の学校へ進学。卒業後は、「せっかく学ぶなら、京都では学べない技術を学びたい」と佐賀県の仏画を専門とする陶板画作家に師事します。
関西で修業する道もありましたが、「実家と関わりのある方が多く、“取引先の娘さん”として特別扱いは受けたくなかったので、まったく関わりのない工房を探しました」と退路を断ち、単身佐賀県へ向かうことを決意したのです。
自然豊かな山の中にあった工房では、外界との関わりを絶ち、まさに山奥での修業を経験します。自然に触れ、静かな環境で修業することで、生命の力強さを肌で感じ、命のあり方や尊さについて考える日々。風や木々、花、空など自然物をモチーフに描くSHOWKOさんの感性は、修業時代の経験がベースになっているのかもしれません。当時の師匠の展示会を通して知り合った人々との出会いからも刺激を受け、「人間的にも成長できた」と振り返ります。
クライアントワークを極め、心に響く作品づくりへ
佐賀県で独立する道もあったそうですが、「京都でしか学べないこと、京都でしか成し遂げられないことがある」という思いが勝り、京都へ帰郷。工房を立ち上げ、独自の技法で制作をはじめました。初の個展は大盛況で、用意した作品が飛ぶように売れました。しかし、SHOWKOさんの中に生じた思いは、意外にも戸惑いや迷いだったのだとか。
「ありがたいことですが、これで良いのかな、と怖くなってしまったんです」。お客様が何を求めているのか、どういう点に惹かれているのか。それらを自身で理解してより心に響く作品を作り出したいと感じたSHOWKOさん。作家活動の傍らデザイン事務所に所属し、グラフィックデザイナーとしての仕事も始めました。
SHOWKOさんは実家で学んだもてなしの文化である「茶道」を「究極のクライアントワーク」だと言います。デザイン事務所では、クライアントの要求を叶えつつ、Webサイトの制作やブランディングに従事。作家活動にも通じる多くの仕事を経験しました。デザイナーとして活躍しながらさらに茶道の精神と器の可能性を探求する中で、器に物語を込めた“読む器”というコンセプトに至ります。
実家の窯元では、茶道具を多く取り扱っていました。茶道では茶器に「銘」を付け、テーマに沿ったお茶会やおもてなしをする文化があります。「日常づかいの器にも、茶器のように銘を付けたり、物語を込めたり、工夫を取り入れることで使う方に楽しんでもらえたら」。その思いから、ブランドのコンセプトが生まれました。SHOWKOさんの生み出す器は、一つひとつにストーリーがあり、使い手の想像力を掻き立てる仕掛けが隠されているのです。
“読む器”をコンセプトに生まれたブランド・SIONE
2009年、SHOWKOさんは自らのブランド・SIONEを立ち上げます。SIONEの器は、白磁に金彩で描かれた文様が美しく、日々の生活に彩りを添えるようなあたたかみある作風が特徴です。ブランド名のSIONEは「詩」と「音」を合わせた言葉。「器での表現にはどうしても制限があるんです。そのため、詩や音など五感を通して魅力を感じられる器があればと思い、形にしました」。
例えば「PotteryBook」シリーズ。本の形をしたパッケージの片方に物語が、もう片方にはその物語を表現した器が入っています。さらに同封されたQRコードにアクセスすると、物語に合わせた音楽が聞けるという仕掛けも。無限に広がる器の可能性を、SHOWKOさんは追求し続けています。
2016年には、銀閣寺界隈に直営店をオープン。店舗の奥に和室があり、Otonamiのワークショップはここで行われます。SHOWKOさん自身の修業時代の経験から、2プランのうち本格絵付けプランにはメディテーション(瞑想)の時間を取り入れ、イマジネーションをふくらませた後、思い浮かんだ物語を器に描きます。
転写プランでは転写技法を用いて組皿に絵柄を施し、本格絵付けプランではブランドの看板商品であるお碗と豆皿に筆による金彩で絵付けを施します。どちらのプランも作品に「銘」を付け、SIONEのコンセプトに沿った器づくりを楽しむことができます。「作品づくりを進めていくなかで、自分では思いもよらなかった感情になったり、大事な思い出がよみがえったりすることがあります。ぜひ感じたことを作品に込めて愛おしんでほしいですね」とSHOWKOさんは話します。
心の中から湧き上がる、自分だけの物語を器に表現する唯一無二の体験。「想いを形にすることは結構難しいんです。でも器に描くと、不思議と感情を表現しやすい。人生の転機だったり将来の夢だったり……。今まであまり他人には明かせなかったストーリーを器に描く方もいらっしゃいます」。SIONEでの器づくり体験は、自分を見つめ直す貴重なきっかけになるかもしれません。
縁からつながる器づくり。表現の可能性を追求し続ける
修業先の佐賀を発つ際、お世話になった佐賀の人たちに「いつか佐賀と京都の架け橋になるような仕事がしたい」と約束したというSHOWKOさん。現在SIONEでは、佐賀や長崎の工房と提携し、一部の工程を職人たちに委ねており、職人の熟練の技によって器が出来上がります。「佐賀や長崎は焼き物の街で、腕の良い職人さんがたくさんいる。SIONEの器はその技術もあってこそ完成するんです」。当時の約束が果たされた形ですが、「修業時代を含めて、すべてが今につながっているなと思います」とSHOWKOさんは語ります。
SIONEの作品は人気を集め、日本国内のみならず海外にも店舗を展開。イタリア、フランス、中国、台湾など海外でも展示会を行い、高い評価を得ています。さらにSHOWKOさん自身は、陶板画作家としてだけでなく文筆家やアーティストなど幅広く活躍しています。「表現の方法はたくさんあっていい。言葉だったり、器だったり。相手がイマジネーションを受け取って、考えるきっかけや気付きのきっかけになれば嬉しいですね」。
精力的に活動を続けるSHOWKOさんのアイデアの源は、「時間」なのだそう。拠点とする京都は、歴史に触れることができる場所。「今までつながってきた歴史や時間に触れて、自分もその一部であることを感じながら、何かを生み出して、次の世代に受け渡していく……。そんな仕事ができたら」。京都から世界へ、過去から現在、そして未来へ。表現の可能性を追求し、SHOWKOさんは歩み続けます。
SIONE
陶板画作家・SHOWKO氏が立ち上げた器のブランド。“読む器”をコンセプトに、一つひとつに物語がある器を手がけている。器の形・絵柄の設計やデザインはすべてSHOWKO氏が行い、佐賀や長崎の工房と提携し、丁寧な手仕事により完成。白磁に金彩を施した繊細で美しい器は、お祝いや贈り物に喜ばれるプロダクトとなっている。銀閣寺本店のほか国内外にお取り扱い店を展開。
MAP
京都府京都市左京区浄土寺石橋町29