Otonami Story
2023.3.30
精進料理をもっとおいしく楽しく、身近なものに。日本の四季に寄り添う一皿を世界へ。
Interviewee
shojin宗胡 オーナーシェフ 野村大輔さん
動物性の食材を使用せず、季節の野菜、豆、穀物、果実や乾物などを活かして作られる精進料理。近年、世界中でベジタリアンやヴィーガンといった菜食人口が増加するなか、体にやさしく、かつ環境負荷も抑えたサステナブルな食事としても注目されています。
世代や文化、宗教を問わず世界中の人が共に楽しめる精進料理の魅力を発信する、「shojin宗胡」オーナーシェフの野村大輔さん。精進料理店を営む家庭に生まれ育ち、ごく自然な流れで料理の道へ。3代目料理長としてキャリアを積んだのち、自身の店として2015年に「Shojin宗胡」をオープンしました。
伝統を守りながらモダンな感性を加えた精進料理は海外からも高く評価され、「Plant Forward Global 50(植物性の料理を先導する世界のシェフ50人)」にも選ばれています。
伝統を守りながら現代の感性を取り入れた野村さんの精進料理は、一皿一皿が驚きの連続。“法事やお寺で食べるもの”という精進料理のイメージを鮮やかに覆します。その背景には、野村さんのどのような“story”が秘められているのでしょうか。
多様な食文化に触れた幼少期を経て料理の道へ
東京都港区、愛宕山の麓に佇む「精進料理 醍醐」を営む家庭の長男として生まれた野村さん。店と自宅は隣接しており、数寄屋造りの建物の各部屋には季節にあわせた掛け軸や生け花が飾られ、四季折々に表情を変える日本庭園を眺めて育ちました。
家業を継いで精進料理の板前になるのは、ごく自然な流れだったそう。「家族の働く姿を間近に見ながら育ちました。特に祖母からの影響が大きく、いろいろな料理を食べに連れて行ってもらいました。子どもなので堅苦しい店はあまり好きではありませんでしたが、今思えば英才教育ですね」と振り返ります。
幼少期から日本各地の店に足を運び、様々な料理に出会った野村さん。「和食に限らず、洋食や中華、一流の店もあれば、一流ではないけど昔からみんなに愛されている店、名物のある店……。東京はもちろん、京都にもよく行きました」。こうした原体験が、伝統的な精進料理に新しい食材や技法を組み合わせる野村さんの創造力の源となっています。
茶をたしなみ花を生ける、おもてなしの精進懐石
Shojin宗胡では、精進料理を懐石コーススタイルで提供。懐石料理は、安土桃山時代に千利休が精進料理にヒントを得て発案したものといわれています。“懐石”という名前は、中国の禅僧が空腹に耐えるために懐に温めた石を入れたという故事から名付けられたそう。一汁三菜を基本とし、茶会で濃茶をいただく前に出される料理で、旬の食材を使うことや素材の持ち味を活かすこと、心配りをもってもてなすことなど、茶道の精神に基づいて調理・提供されます。
「祖母は、懐石を作る板前さんにお茶を習うように言っていました。季節の食材や器の組み合わせ、慶事や法事などシーンに応じた決まりを知っておくこと。そして、日本には節句があるので、それらにちなんだ食材を使ったり、小物を工夫したり。一つひとつがすべて茶道につながっているんです」。
「盛り付けのセンスを磨くために板前はお花のお稽古をすべし、というのも祖母の教えです」。野村さん自身も清風瓶華にていけばなを習得。毎日の営業時間前、自ら店舗内の花瓶に花を生けています。
精進料理の魅力をもっと広く伝えたい
大学卒業後に精進料理 醍醐で修業を重ねた野村さんは、31歳の時に3代目料理長に就任。2008年から継続して『ミシュランガイド』二つ星の評価を獲得しました。その後2015年に独立し、新感覚の精進料理を気軽に味わうことをコンセプトとした「shojin宗胡」を六本木にオープン。「shojin」は海外の方にも精進料理を知ってほしいという想いから、「宗胡」は野村さんの茶名から名付けられました。
「精進料理にあまりなじみがない方も多いので、まずは体験していただきたいですね。精進料理の入門編として、見て美しく、食べておいしく、そしてお酒も飲みながら楽しく味わえる。shojin宗胡が精進料理に興味を持っていただくきっかけになったら嬉しいです」。
野村さんは、精進料理の啓蒙活動に積極的に取り組んでいます。国内では、曹洞宗の大本山である永平寺門前での精進料理イベントのほか、全国各地の生産者や企業と連携したレシピ開発、後進の指導育成にも注力。さらには、店内奥にあるキッチンスタジオで海外シェフ向けの料理教室を開き、日本が誇る食の技術と文化を世界に伝えています。「Plant Forward Global 50」に選ばれた野村さんの技術を学びたいと、世界各国から有名シェフや食通のVIPが訪れています。
季節感と素材の組み合わせを大切に、新たな味を生み出す
精進料理のシェフとして野村さんが大事にしているのは、何より旬の食材を活かすこと。「例えば、たけのこに木の芽、かぶに柚子など、伝統的な素材の組み合わせはやはり間違いがなく外せません。基本的な組み合わせを取り入れながらも、新たな味を発見していきたい。日々、この食材とこの食材を組み合わせたらどうなるかな、と考えながら挑戦を続けています」。
「モダンで奇抜な料理ばかりになると、お客様が食べ疲れてしまいます。定番の組み合わせの中に新しさや遊び心のある料理を組み入れながらコースを考えています」と、野村さんは話します。
美しく楽しい精進料理の世界へようこそ
shojin宗胡がOtonamiにて提供するプランでは、3週間ごとにメニューが変わる季節の懐石コース(全8品)を、野村シェフがセレクトした国産ワインと日本酒のペアリングで楽しみます。「まずは気軽に、精進料理を知ってほしい。もし興味が湧いたら、奥深い精進料理の世界に進んでいただければと思っています」。
国際色豊かな六本木という土地柄、shojin宗胡には海外のお客様も数多く訪れます。精進料理を通して、日本の四季の魅力を広く届けたい。そんな想いを込めて、今日も野村さんは一皿一皿のおいしさを追求し続けています。
shojin宗胡
東京・六本木の精進料理店。伝統を守りながらモダンな感性を加えた精進料理を懐石スタイルで提供。 「Plant Forward Global 50(植物性のお料理を先導する世界のシェフ50人)」にも選出されたオーナーシェフ・野村大輔氏による新感覚の精進料理が国内外で高く評価されている。
MAP
東京都港区六本木6-1-8 六本木グリーンビル 3F