Otonami Story
2023.3.22
人を惹きつける、不思議な魅力を持つワイン。その面白さを多くの人と分かち合いたい。
Interviewee
The Court of Master Sommeliers(CMS)認定マスターソムリエ 高松亨さん
東京・広尾のワイン専門店「THE CELLAR Hiroo(ザ・セラー広尾)」で行われるテイスティング体験に、オンライン特別ゲストとして登場する、マスターソムリエ有資格者の高松亨さん。ソムリエ資格のなかでも最難関と評されるこの資格を、2019年、高松さんは弱冠24歳にして、しかも日本人ではじめて取得しました。
オーストラリアで生まれ育った高松さんは、現在は日本を拠点に活動。北海道余市町地域おこし協力隊のワイン産業支援員として、余市町産ワインのPR活動に従事しながら、町内にあるワイナリー「ドメーヌタカヒコ」でブドウ栽培とワイン醸造について学んでいます。
高松さんは、いかにしてマスターソムリエの資格取得を成し得たのか。そして、日本での修行をもとにこれから目指すこととは。「ワインがつないだ縁によって今の自分がある」と語る高松さんの、過去と現在、そして未来に向かう“story”に迫ります。
※画像提供:余市町(撮影:山崎ゆり)
コーヒーから導かれた、ワインの不思議な世界
高松さんはオーストラリアのシドニー出身。ご両親は共に日本人ですが、お父様が日本食の料理人で、シドニーのレストランに勤めていたことがその所以です。15歳の時、お父様が勤めていた店の姉妹店のカフェで、バリスタのアルバイトを始めた高松さん。働きはじめた動機は高校生らしい気軽なものでしたが、そこには高松さんが想像していた以上の世界が広がっていました。コーヒーを淹れる面白さ、コーヒーの世界の奥深さに、どんどん魅せられていったのです。
オーストラリアでは18歳からお酒を飲むことができます。ワインを飲みはじめると、次第に高松さんの興味関心の矛先は、コーヒーからワインに向かって行きました。「産地の個性が味わいに大きく影響することや、五感で味わうことなど、コーヒーとワインには通じるところがあります。ただ一方で、ワインはコーヒーと違って、気軽に飲めるものから驚くほど高価なものまで、価格の幅が広い。そんなワインの世界が不思議で興味深く、探究してみたくなったのです」と高松さんは話します。
世界各国の産地巡りを楽しみながら、独学でワインを学ぶ
高松さんが本格的にワインの勉強を始めたのは21歳の頃。目指したのは、イギリス発祥のソムリエ資格認定機関「The Court of Master Sommeliers」の資格でした。レベル1・2・3、マスターソムリエという段階があり、レベル2が日本のソムリエ資格と同レベルで合格率は60%程度、レベル3のアドバンスドソムリエが25~30%、さらにその上のマスターソムリエの合格率は3~8%と非常に狭き門となります。
当時、シドニーのレストランで、ランナーと呼ばれる下積みのポジションで働いていた高松さん。仕事の前後や休みの日を勉強に充て、自分のペースで独学を重ねていきました。資格取得への強い想いは持ちつつも、あまりストイックになり過ぎず、楽しみながら学ぶことを重視していたそうです
さらに、仕事と勉強の合間に時間を作っては、世界各国の産地巡りも楽しみました。なかでも印象に残っているのは、ワイン大国フランスの銘醸地、ブルゴーニュやシャンパーニュ。「隣り合う畑でも、ワインの格や値段が大きく変わる不思議な場所。見ていてとても面白かったです」。
また、実際に産地を訪れることによって、机上の学びとは比べ物にならない知識を得ることができたと言います。こうして着々と学びを深め、勉強を始めて1年弱でレベル1・2に合格。その翌年にはレベル3の資格も取得しました。
ソムリエ界最高峰の資格、マスターソムリエ取得へ
レベル3のアドバンスドソムリエという資格は、どのレストランでもソムリエとして働くことができるレベル。しかし、高松さんの挑戦はここで終わりではありませんでした。レベル3の合格と同時に、マスターソムリエの試験に出願したのです。加えて、高松さんはこの最難関の試験を突破するために、試験が行われるイギリスのワーキングホリデービザを取得し、シドニーからロンドンへ。レストランでソムリエとして働きながら、マスターソムリエの資格を持つディレクトールの下で約2年、勉強と経験を積み重ねました。そしてついに、高松さんは弱冠24歳にして、また日本人としてははじめて、ソムリエ界最高峰の称号を手に入れたのです。
念願のマスターソムリエ資格取得後、世界はコロナ禍に直面。高松さんは、自身のこの先のキャリアや人生についてあらためて見つめ直しました。そして次なる目標に据えたのが、ワイン業界最高峰の資格といわれるマスターオブワインの取得。こちらは、ブドウの栽培からワインの醸造、さらにはワインビジネスまで、ワインに関するあらゆる側面の知識や理解が必要になります。そこで高松さんは一念発起し、ソムリエの仕事を辞めて実際のワイン作りの現場に入って学ぶことを決意。修行の場として選んだのは、北海道余市町にあるワイナリー「ドメーヌタカヒコ」でした。
理想のワインの作り手を目指して
ドメーヌタカヒコは、有機栽培のピノノワールで個性的なワインを生み出している、小さなワイナリー。“日本で最も入手困難なワイン”といわれることもあり、国内外で注目を集めています。高松さんも以前から「飲み飽きない美味しさ」に惹かれていたそう。そんなワイナリーで、一スタッフとして働く日々を、「本当に楽しく、充実している」と語る高松さん。今では、マスターオブワインの資格取得のみならず、ワインの作り手になることも目指し、修行に励んでいます。
ワインには、人と人とをつなげる力がある
ソムリエとして、現在は作り手としてもワインと向き合う高松さんが考える、ワインの面白さや魅力とは。「同じブドウ品種でも造り手によって味はまったく違ってきますし、さらに、その後の保存状態やサーブする環境によっても味は変化します。作る人やサーブする人の人柄が味わいに現れる。そこが、面白いところですね」。さらに、人をつなげる力があるところも、ワインの魅力だといいます。「ソムリエとして働いていた時も、ワインを通じたお客様との交流に楽しさを覚えていましたし、僕自身も、ワインがつないでくれた人との縁によって今があります」。
そしてもちろん、OtonamiのTHE CELLAR Hirooでのテイスティング体験を通じた出会いも、高松さんは楽しみにしています。「美味しいワインを囲みながら、参加者のみなさんとラフにお話しできればと思っています。人と人とをつなげるワインの力に身をゆだね、素敵なひとときを共有しましょう」。
THE CELLAR Hiroo
ワイン専門店「カーヴ ド リラックス」の姉妹ブランド店で、2022年10月にオープン。取り扱うワインのブドウ品種をピノ・ノワールとシャルドネに特化し、ブルゴーニュをはじめ、日本や南アフリカなどの新興ワイン産地まで、高品質なワインを厳選して取り揃えている。店舗奥のテイスティングルームでは、4~5種類のワインの有料試飲が可能。生産者やインポーターを招いてのワインセミナーも定期的に開催している。
MAP
東京都港区南麻布5丁目16-6 旧 Kosei Hiroo 1F