Otonami Story

2024.12.23

香りで記憶を紡ぎ、暮らしに彩りを。創香がもたらす心満たされるひととき。

Interviewee

TOMOKO SAITO AROMATIQUE STUDIO 齋藤智子さん

「天然の香りで、調える」という哲学のもと、一人ひとりに寄り添う香りをつくるアロマ調香デザインの第一人者、齋藤智子さん。こだわりの天然精油を用いたオリジナルの創香を得意とし、ホテルや商業施設などでその独自の手法を発揮。一歩足を踏み入れた瞬間に広がる心地良い香りの演出は、国内外で高い評価を受けています。

幼少期から親しんだ白檀の香りや、自然と共生する日本の文化が、齋藤さんの香りづくりの原点。「香りを通じて五感を研ぎ澄まし、自分と向き合う時間を届けたい」という思いを胸に、感性豊かな香りの世界を追求し続けています。

幼い頃の記憶からアロマとの出会い、そして「香りのデザイン」という新しい手法にたどり着くまでの道のり……。齋藤さんが紡ぐ香りの“Story”に迫ります。

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幼少期に触れた香りの原点、白檀がつなぐ京都の記憶

京都で10代続く家に生まれ、今では「創香」という香りを生み出す仕事に携わっている齋藤さん。香りに強い関心を抱くようになったのは、幼少期に京都で触れてきたお香の“白檀”にあります。お父様が生まれ育った家は、寺町通というその名の通りお寺が多いエリア。仏壇にお供えしたり、町中からそこはかとなく漂うお線香の香りは、齋藤さんにとって今でも京都を象徴する存在だといいます。

夏のうだるような暑さから、冬の底冷えする寒さまで、移り変わる季節と共に感じた白檀の香りが、京都の風景を思い出させ、深く心に刻まれているのだそう。「白檀の香りは、京都の記憶そのもの。今でも大切にしている特別な香りです」と語ります。

白檀の香り漂う京都に特別な思いを持つ齋藤さん

幼少期から香りに対する感性は豊かで、特に香りのする文房具が好きだったという齋藤さん。「香りのする消しゴムやシールの入ったお道具箱は、宝箱のように感じていました」と振り返ります。その記憶を心に留めながら、香りの世界への情熱を静かに育んでいきました。

学生時代に広がった香りの世界

中学生の頃から部屋でお香を焚いて楽しむことが趣味だったという齋藤さん。当時流行していたアジア文化の影響を受け、インセンスやエスニックな香りに魅了されました。本格的にアロマに出会ったのは大学生のとき。ある日、はじめてベルガモットの香りを嗅いだとき、驚きを覚えたといいます。

ベルガモットの香りとの出会いが、後にアロマの道へ進むきっかけに

「香りを嗅いだ瞬間、気分がぱっと変わるのを感じたんです。お香とは違う、新しい香りの楽しみ方に出会った気がしました」。その瞬間、香りが持つ無限の可能性に気づき、深い関心を抱くようになりました。

当時はまだ趣味の範囲を超えるものではなかったそうですが、この経験が、後に齋藤さんを香りのプロフェッショナルへと導くことになったのです。

香りを仕事に、アロマから調香デザインへの道

その後、結婚や退職を経てアロマの資格を取得した齋藤さんは、自身の出産をきっかけに、母親たちのサポートに目を向けるようになります。「お母さんが自分のために使える時間は本当に限られています。でも、お母さん自身が幸せでいなければ、子どもと向き合うこともむずかしいですよね」。

そんな思いから、ベビーマッサージとアロマセラピーを組み合わせたスクールを開講。子育てをする母親たちが自分を取り戻すひとときを過ごせる場所として、多くの共感を得ました。

人を幸せにする香りをデザインしたい。香りに込めた想いが広がる

また、解剖学や皮膚構造と共に全身のアロマトリートメントも学び、アスリートのケアや産婦人科での産褥ケアを行うなど、“人に触れる”経験を重ねてきた齋藤さん。皮膚に触れ、感じ、学んだことは、人間にとって精油がどのように作用するのかを熟考する根本として、「香りをつくる」今の仕事においても、大切な核となっているそうです。

その一方で、齋藤さんはアロマの可能性をさらに追求したいと考えるようになります。「香りはその人の感覚や状況によって捉え方が変わるもの。だからこそ、その人だけに寄り添う香りをつくりたいと思いました」。アロマセラピーの枠を超え、天然精油による調香で個人のための香りをデザインするという新たな挑戦が始まります。

香りの世界の新境地、アロマ調香デザイン

一人ひとりにフィットする香りを提案するために、試行錯誤を繰り返す齋藤さん。「天然精油には300種類以上の芳香成分が含まれています。その複雑で豊かな香りを十分に活かすには、記憶や感情といった感性的な側面にも目を向ける必要があると感じました」と語ります。科学的なデータだけに頼るのではなく、香りが持つ感覚的な力やその可能性を最大限に引き出すために、記憶や感情との関係も探っていきます。

天然精油の香りを一つひとつ丁寧に紐解きながら、唯一無二の香りを創り出す瞬間

研究を続ける齋藤さんが生み出したのが「アロマ調香デザイン」です。目的に合わせて最適な香りの素を選び、天然精油が持つデザイン性と機能性を掛け合わせることで、他にはない“世界にひとつだけの香り”を創造するという独自のメソッド。これまで6,000以上の香りを手がけた実績と技術を礎に生み出されたアプローチは、既存のアロマセラピーを超え、香りを暮らしに取り入れるという新境地を開いたのです。

齋藤さん率いるTOMOKO SAITO AROMATIQUE STUDIOが手がける天然精油のアロマ

「香りには記憶や感情を呼び起こす力があります。それを活かして、一人ひとりのライフスタイルや想いに寄り添った香りをつくりたい」。齋藤さんの哲学は、香りを単なるツールとして扱うのではなく、心や空間を整えるデザインの一部として位置づけています。

「忙しい日々の中で、ふと香りに集中するひとときが、心を穏やかにし、新たな視点を与えてくれることがあります。暮らしに少しの余白と彩りを加えられるように」。齋藤さんがデザインする香りは、私たちの五感に働きかけ、日常を豊かに彩ります。

「眠り」をテーマにデザインしたブレンドオイル。日本各地の天然の木がもつ香りの力で心地良い眠りに導く

Otonamiの体験で齋藤さんが大切にしているのは、香りが持つ力を実際に体感してもらうこと。普段は意識しない香りに触れ、その瞬間に何を感じるのか……。香りがきっかけで心に余裕を持てたり、自分自身と向き合えたりする人もいるでしょう。「香りを組み合わせたときに生まれる新しい発見を楽しみ、それを暮らしに取り入れてほしい」と齋藤さんは話します。

香りを通じて自分と向き合う体験

日本の香りを世界へ、そして、未来を担う子どもたちへ

「日本の木の香り」をテーマに活動をしているTOMOKO SAITO AROMATIQUE STUDIO。精油は農作物と同じで、その土地により香りがまったく異なります。土、水、天候、気温など、自然のすべてが関わってくるのだそう。

そのため、全国各地の蒸留所に足を運び農作業や蒸留を手伝ったり、生産者のお話を聞き実際に素材に触れたりすることは、香りづくりに欠かせない大切なことなのだとか。現地で得た知見は、齋藤さんがつくる数々の香りのコンセプトヘつながっているのです。

齋藤さん自ら日本各地に足を運び、自然の恵みから天然精油を抽出

五感で感じた素晴らしい日本の香りを、世界に広めることにも強い想いを抱いている齋藤さん。「日本で感じた香りを海外で嗅いだとき、『また日本に行きたい』と思ってもらえるような、香りで世界の架け橋になりたい」と語ります。日本の自然が生み出す豊かな香りが人々の記憶や感情に刻まれ、文化の魅力を伝える一助となることを目指しています。

日本で感じた香りの記憶から、自然と共生する文化を世界に広げる

また、次世代を担う子どもたちへの香りの教育にも情熱を注いでいるのだそう。「香りを知ることで、感性が豊かになり、選択肢が広がる。それが、子どもたちの未来を彩る大切な要素になると思っています」。その想いから、香りを用いた感性教育の普及に取り組む計画を進めています。

子どもたちの感性を刺激する、天然の香りに触れる機会を

齋藤さんがこだわる天然精油の奥深い香りは、ただ心地良さを提供するだけでなく、私たちの感覚や暮らしに彩りを添えてくれます。「香りは、人生を豊かにするツールであり、未来を広げるきっかけになる」。齋藤さんが紡ぐ香りの物語はこれからも続きます。

これからも香りの世界を追求し暮らしを豊かにする活動を広げていく齋藤さん

TOMOKO SAITO AROMATIQUE STUDIO

「アロマ調香デザイン®︎」の第一人者、齋藤智子氏による香りのデザインスタジオ。天然の精油にこだわり、日本の木の香りを軸としたアロマ調香デザインを手がける。調和の取れた香りをデザインするプロフェッショナルチームにより、目的に応じて機能性とデザイン性を掛けあわせ、オンリーワンの香りを創っている。インスタレーション、空間演出、化粧品などのアロマデザインを通して、香りによる幅広い分野のマーケティング・ブランディングを行うほか、アロマ調香の普及やアロマ調香デザイナーの育成を行う教育事業にも力を入れている。

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