知の結晶が集う渡部邸の書庫「昇書堂」
杉並区の閑静な住宅街で静かに佇む渡部邸。この邸宅で大きな面積を占める「昇書堂」は、日本を代表する英文学者・評論家であり、“知の巨人”と呼ばれた故・渡部昇一氏(1930-2017)の書庫です。広大な書庫に所蔵される書物は、推定10万冊。生前の昇一氏は各界の著名人とも親交が深く、過去には元首相や世界的な財閥の一族なども訪れています。
階上の天井まで埋め尽くす書物の数々には、知を愛した昇一氏の人生が垣間見える昇書堂は現在、通常非公開。2017年の昇一氏逝去以降、親族はできる限りこの場所に手を加えず、当時の面影がそのまま残るように守り抜いてきたといいます。机には数々の書物や付箋が今も変わらず佇み、つい先ほどまで昇一氏が座って書を開いていたかのよう。思わず息をのむほど、静寂に包まれた厳かな空間です。
昇書堂の奥に静かに佇む昇一氏の机本プランは昇書堂の解説付きツアーから始まり、サロンコンサート、歓談を楽しむティータイムまで、著名な日本の文学作品とクラシック音楽の世界を巡ります。案内するのは、昇一氏の長男であり、国内で広く活躍するチェリストの渡部玄一氏。桐朋学園大学卒業後、ニューヨークのジュリアード音楽院などでチェリストとしての鍛錬を重ねました。帰国後は、読売日本交響楽団の団員として長年にわたり活動。現在は、サロン音楽と呼ばれる室内楽の演奏者として、全国各地で美しく重厚な音色を響かせています。
気さくな笑顔で出迎えてくれる渡部玄一氏音楽と文学が交差する極上の空間
まずは玄一氏の解説による、昇書堂を周るツアーから開始。書庫内には、近年出版されたものから数十年、数百年前にまで遡る、国内外の歴史的な書物がひしめいています。中にはモーツァルト自筆の楽譜など、極めて貴重な資料も保存されています。
海外文学と日本文学のゾーンに分かれた奥行きがあるエリアも歴史に名を刻んだ数々の文豪たち。彼らに大きな影響を与えたのが、クラシック音楽の存在です。海外の著名な文学作品はもちろん、日本の小説にも、曲の一節を引用した表現や、コンサートを鑑賞するシーンが描かれています。それほどまでに、音楽と文学は密接につながってきました。そして、このふたつの芸術を象徴する場所こそ、昇書堂が静かに時を刻む渡部邸です。
音楽とゆかりがある書物を紹介しながら、時折、父・昇一氏との思い出話を語る玄一氏本プランは、季節ごとにテーマを設けた全4回の連続プログラム。明治期の文豪たちを魅了した曲など、音楽と日本文学の深いつながりをたどります。第1回のテーマは夏目漱石。昇書堂には『吾輩は猫である』の初版本も眠っているそう。昇書堂ツアーとサロンコンサートを通じて、作品に息づく音楽的感性を玄一氏の視点から紐解いていきます。
初版本や限定本など貴重な書物が数多く所蔵されているクラシック音楽の原点、サロンで聴く文学と旋律の“物語”
文学の世界を堪能した後は、池のある中庭を横目に進み、サロンコンサート会場のパーティールームへ。ピアノ講師であった昇一氏の妻のほか、子どもたちも音楽家として活躍する渡部家。世界の名だたる重鎮たちもここへ招かれ、一族の演奏によるおもてなしに心を寄せてきました。知る人ぞ知るこの至高の社交場が、パーティールームという名の音楽サロンとなっています。
池のある中庭には、色鮮やかな鯉たちが泳ぐ主に演奏される曲目テーマは、クラシック音楽のエッセンスが織り込まれた日本文学の名作群。文豪たちを魅了した美しき調べを、チェロの音色で紡ぎます。夏目漱石がテーマの9月は『吾輩は猫である』に秘められた音楽的感性を読み解き、その世界観を堪能。10~12月は、チェリストを主人公とした『セロ弾きのゴーシュ』で知られる宮沢賢治の旋律をテーマに。また、戦後間もなく『モオツァルト』を発表した小林秀雄の価値観にも触れる回もあります。プログラムは季節ごとに全4回。お好きな回に繰り返し参加することができます。
文学作品にゆかりのある曲から、音楽に魅せられた文豪たちの感性を紐解く名作に出てくる曲たちはどのような背景で生まれたのか。そして、作品の中でどのように解釈されているのか。演奏前後には、玄一氏が自ら丁寧に解説。こうしてクラシック音楽に“ストーリー”が見出され、一曲一曲の魅力をより深く理解しながら鑑賞することができます。また、玄一氏が奏でるチェロのほか、ピアノ・バイオリンとの三重奏やソプラノが入る編成もご用意。クラシック音楽に詳しくないという人も、気軽に楽しみながら知識・美意識が磨かれるでしょう。
パーティールームには、玄一氏の師匠や幼い頃の写真など思い出の品も並ぶ「多くのクラシック曲は、貴族をプライベート空間に招いて演奏するサロン音楽(室内楽)として誕生しました。本体験のようなパーティールームでの演奏会は、クラシック音楽鑑賞の本質と言えるでしょう」と、玄一氏は語ります。演奏者のわずかな息づかいや、弦がかすかに擦れる音さえ聞こえてくる室内。ここまでの近距離で楽しめるサロンコンサートは、現代では珍しいのだそう。演奏時間は約60分。広いコンサートホールとはまた違った音楽の形に触れられる貴重なひとときです。
玄一氏と音楽を語り合う和やかなティータイム
締めくくりには、サロンコンサートの余韻に浸りながら、玄一氏との歓談を楽しむティータイム。上質な輸入食材を取り扱う「山本商店」が厳選した、デンマーク王室御用達「A.C.パークス」のティーを特別にご用意します。昇一氏の精神を受け継いだ豊かな知見に加え、弾むような口調で音楽や文学を紐解く玄一氏。普段出演するコンサートでも、わかりやすく軽快な語りで、クラシック音楽を聴く厳かな会場の雰囲気が自然と明るくなるのだとか。
慰問活動にも積極的な玄一氏は、医療機関や福祉施設などでわかりやすい解説を交えて演奏している「クラシック音楽は専門的な教養が必要で難しいのでは、というイメージを持つ方が多いかもしれません。しかし、一人ひとりが興味を抱けるような入口がきっとあるはず。その扉のひとつが“ストーリーテリング”だと信じて、誰もがクラシックを楽しめる世界を目指してきました」と玄一氏。ケーキ(※)とティーをいただきながら、心がほぐれる玄一氏との語らい。昇書堂ツアーやサロンコンサートで感じたことや疑問に思ったことがあれば、気軽に質問してみましょう。お帰りの際には、山本商店が提供するヨーロッパ各地のお菓子など、当日のテーマに合わせたおみやげをお渡しします。
※内容は回によって異なります。2027年2月以降の催行日はお茶菓子のご用意となります。
クラシック音楽の新たな楽しみ方
季節ごとに多彩なテーマで学び、五感で楽しめる本プログラム。国内外で支持される日本文学に触れながら音楽に想いを馳せるうちに、次のシーズンのサロンコンサートが待ち遠しくなることでしょう。そして最終回には、クラシック音楽界の過去と未来が重なります。伝統的なクラシック音楽のDNAを受け継ぎながらも、現代の日本で才能を開花させた若き音楽家を呼んでの演奏会。日本に息づく文化芸術の継承に、明かりを灯す瞬間となるでしょう。
知の宝庫を巡り、文学と音楽の世界に触れる特別な体験を知の巨人・渡部昇一氏が晩年を過ごし、10万冊におよぶ書を遺した昇書堂。昇一氏の遺志を継いだチェリスト・渡部玄一氏が、知を愛する人たちへバトンを託す場所でもあります。音楽と文学が巡り合うにふさわしいこの空間で、クラシック音楽の新たな楽しみ方を心ゆくまでご堪能ください。