Otonami Story

2023.3.3

存在しない風景を見つめて。儚さと美しさを花に託し、表現していくこと。

Interviewee

雨 北鎌倉 美術作家・花道家 亀井紀彦さん

豊かな自然に囲まれ、穏やかな時間が流れる北鎌倉。このエリア特有の静けさに溶け込む「雨 北鎌倉」は、美術作家・花道家の亀井紀彦さんが2020年7月にオープンさせたアトリエ兼ギャラリーです。

亀井さんは大学時代から茶道と華道を学び、草月流師範の資格を取得。作家としての独立を考えた時、日本独自の美意識を表現するために選んだ素材は「花」でした。生花だけでなくプリザーブドフラワーやアートフラワーを使い、自然物とかけ合わせることで美しさと儚さの香る作品を生み出しています。

近年は、代表作『花山』のシリーズを海外で発表するなど、さらに活躍の場を広げる亀井さん。花をモチーフにした作品づくりを通じて、「日本の方はもちろん、海外の方とも日本ならではの美しさを共有したい」と話す亀井さんの“story”をお届けします。

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湧き上がる創作意欲のままに

大阪で生まれ育った亀井さん。お父様が趣味で油絵を描いており、創作することや表現することは特別なものではなく、自然と生活の中に存在していたそうです。小学生の時に1から鯉のぼりを制作するなど、「子どもの頃からとにかく何かをつくりたいという気持ちが強かった」と自身の幼少期を振り返ります。

懐かしいものづくりの思い出について振り返る

その後も湧き上がる創作意欲と向き合い続けた亀井さんは、美術系の高校、大学、そして大学院へと進学。商売をしていた家族が元旦に伊勢神宮へ参拝していた影響から、大学1年生の時にはじめてひとりで伊勢神宮へ赴き、そこで日本独自の文化や美意識に関心を持つように。伊勢の地で花開いた興味は創作意欲に波及し、茶道と華道の世界にも足を踏み入れることとなりました。

食べてなくなることの儚さを美しい和菓子で表現

卒業制作では、老舗和菓子店「とらや」にオリジナルの和菓子『内菓』を依頼。「美しさと儚さ」や「刹那的なもの」という、現在の作家活動につながるテーマを見出していきます。

ミニマルな美しさに惹かれて

大学院修了後は一般企業に就職し、会社員として6年間を過ごしたのち花屋へ転職。生花店勤務を経て、アーティストとして独立します。独立に伴い、日本文化を肌で感じるためにしばらく身を置いていた京都では、ひたすら寺社の庭園を巡っていたそう。亀井さんは当時を「様々な庭園を眺め、大きいものを小さくする縮(ちぢみ)の文化に強く惹かれるようになりました」と振り返ります。

「雨 北鎌倉」に飾られた亀井さんの作品

代表作『花山』と『景色風』の誕生

「手のひらに自然の景色を」というコンセプトのもと制作された『花山』は、作品群『雨』の出発点となった亀井さんの代表作です。両手におさまる平らな器の中に色鮮やかな小花を挿した『花山』には、生花を使用したものとプリザーブドフラワーを使用したものとがあり、どちらも空をはばたく鳥の目線から見ているような“ここではないどこか”を美しく繊細に表現しています。

アトリエに並ぶ『花山』や『景色風』

『花山』をひと回り小さくし、手のひらにおさまるサイズで景色を描くのが『景色風』。土台となる浮き石にそっとプリザーブドフラワーを挿し、存在しない風景を思いのままに形づくります。​​調香師​​「sōhon」の津田啓一郎さんが作るオリジナルの香りを取り入れることでより情景が際立つ、唯一無二のアートプロダクトです。

『景色風 -小-』の制作風景

『景色風』が生まれたのは、亀井さんがオランダで展示を開催した時のこと。特別な世界観を多くの人に愉しんでもらうため、長持ちする素材であるドライフラワーやプリザーブドフラワーを使った作品に行き着いたのだそう。

世界の無常から美しさを見出す

雄大な自然を凝縮したミニマルな美しさと、幻想的でどこか懐かしい香りが漂う『景色風』。Otonamiの体験での『景色風 -小-』の制作を通して、「景色のできる瞬間の喜びや、そこにある想いの共有ができたらと思っています」と亀井さん。繊細さと力強さ、そしてしなやかな感性が混ざり合う、亀井さんにしか紡ぐことのできない芸術の世界に実際に触れられる機会。まるで瞑想のような心の静けさを感じ、存在しない風景へ美しさを見出す、特別な時間をお楽しみください。

存在しない風景を愛でるひそやかな喜び

亀井さんはこれからの作家活動について「海外での活動を増やしたい」と語ります。「扱う言語が違っても、日本的な美しさや儚さを共有できる、そんな作品を作り続けたいです」。はじめて目にしたようで、懐かしい感覚もおぼえる、現実と非現実が混ざり合ったような不思議な花々の風景は、海を超えてどこまでも続いていきます。

雨 北鎌倉

2020年7月、美術作家・花道家の亀井紀彦氏が北鎌倉にオープンしたアトリエ&ギャラリー。プリザーブドフラワーやドライフラワー、アートフラワーを使用するなど、これまでにないアプローチが特徴の作品は、国内外から注目を集める。作品が生まれるアトリエとしてだけではなく、展示やワークショップなども行っている。

MAP

神奈川県鎌倉市山ノ内841

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