Otonami Story

2025.10.1

“草花がそばにある幸せ”を多くの人へ。2代で織りなす唯一無二の世界観。

藤の花

名古屋・星ヶ丘にある「藤の花」。希少な樹木やこだわりの苗物を取り入れた作品や、センスあふれるアレンジが注目されているフラワーギャラリーです。季節のアレンジメントや苔玉など、多彩な植物や花の魅力を伝える空間として、名古屋のみならず全国にファンを抱えています。

オーナー・藤田禮子さんの植物を慈しむ思いから誕生した藤の花は、単なる草花の販売にとどまらず、「花のある空間」そのものの提案を大切にしてきました。2代で店舗運営に加え、ゲストハウスやホテルまで活動の場を広げてきたのは、草花がそばにある幸せを多くの人に届けたいという願いからです。

感度の高い大人を魅了する唯一無二の世界観を切り開いた軌跡と、創業からの思いを大切に育んできた藤の花の“Story”をたどります。

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花が好き。純粋な思いから生まれたフラワーギャラリー

名古屋・星ヶ丘駅からすぐそばにある「藤の花」は、一般的な花屋とは一線を画すフラワーギャラリーです。高級蘭や希少植物を扱い、海外で買い付けた花器やインテリアが並ぶ空間は、まるで小さな美術館のよう。個性豊かで上質なアレンジメントや苔玉が揃い、地域住民だけでなく、草花を愛する全国の人々から支持されています。

フラワーギャラリー「藤の花」。一歩足を踏み入れると、珍しい植物と厳選された花器に囲まれた洒脱な空間が広がる

オーナーは、ガーデンデザイナーでインテリアコンサルタントの藤田禮子さん。1984(昭和59)年の創業以来、培った専門知識と生来の感性を活かし、花のある空間そのものにこだわった店舗づくりを行ってきました。

苗字の「藤」と、昔から好きな紫色の和名のひとつ「藤」を用いて、上品さを感じさせるブランド名に

幼い頃から花や緑に親しみ、家庭や学校生活で自然と感性を磨いてきた禮子さん。自らの手で花を育て、家族から褒められた経験が花に向き合う楽しさの原点になったといいます。結婚を経て母となり、子育てが落ち着いたタイミングで心に浮かんだのは、何か新しいことに挑戦したいという思いでした。植物の世界に入ったのには「特別な理由はないんです。ただ、花が好きだから」。幼い頃からの純粋な思いが、藤の花を立ち上げる原動力になりました。

藤の花 オーナーの藤田禮子さん

植物とアートが調和する、藤の花ならではの世界観

1987(昭和62)年、藤の花はガーデンデザインを提案するお店として、独自の感性でセレクトした希少な樹木や苗物の販売をスタート。店頭を彩る草花だけでなく、花材やインテリアにも徹底的にこだわりました。禮子さんが得意とするのは、アイアンや銅、石といった重厚さを感じさせる素材と植物をかけ合わせる空間づくり。禮子さんの唯一無二の美意識が、藤の花の独自の世界観として花開きました。

年に数回メキシコをはじめとする海外に買い付けに赴き、新しい感性を取り入れている

店舗運営が軌道に乗ると、樹木・苗木だけでなく切り花・ガーデン雑貨などの販売も開始。単なる草花の販売にとどまらず、花のある空間づくりを提案したいと考えた禮子さんは、同時期に出会った芸術的センスあふれるメキシコ人デザイナー・クルス氏とパートナーシップを結びます。日本で唯一の取り扱いを任され、藤の花でしか扱っていないメキシコ家具とアンティーク、そして草花との調和によってコーディネートされる独創性の高いスタイリングを強みに、オフィスやレストランなどのインテリアコンサルティングを精力的に手がけるようになりました。

大切に受け継がれる信念に込められた、草花への愛情

義娘であるフローリストの藤田千以子さんが藤の花に加わったのは、1997年のこと。短大卒業後の進路に迷っていた千以子さんは、当時の婚約者でありのちに旦那様となる和之さんの勧めもあって、草花への関心が芽生えたといいます。フラワーデザインスクールを修了し、講師資格を取得しました。

藤田千以子さん。レッスンの講師をはじめ、ゲストハウスでの企画運営など多岐にわたり活動している

藤の花で学ぶようになった当初は、禮子さんの植物の個性を見極める審美眼や、空間全体を美しくまとめる独特のバランス感覚、そして作品一つひとつへの細やかなこだわりに圧倒されたそう。「はじめはただただ憧れるばかりでしたが、義母からもらったアドバイスや、美術館、ホテルといった感性を刺激される場での体験を通して、少しずつ自らの感覚で解釈し、表現できる瞬間が増えていきました」。

大切に手入れされた植物たちは、どれもみずみずしくのびやか

禮子さんから受け継いだ多くの事柄の中でも、千以子さんが特に大切にしているのは、草花に愛情を持って接すること。「植物を慈しみ、愛情を注ぐことが義母の信念です。丁寧に世話をするという、草花を扱う者としての基本に忠実に、固定観念を取り払った自由な発想で、藤の花ならではのかけ合わせやデザインを生み出すことを意識しています」と、千以子さんは語ります。

また、禮子さんの「自分がもらったら嬉しいと思えるお花を届ける」というポリシーもいつも心に留めているのだとか。「贈られる側の気持ちを考えながら仕立て、手渡すその瞬間だけでなく、空間に花を飾った時の幸せなひとときまで届けたいと思っています」。

美しさと癒やしをまとう、藤の花のシグネチャー

禮子さんと千以子さん、そして和之さん、長年勤めているスタッフたちと手を取り合って歩みを重ね、2006年には現在のギャラリーに移転し、店舗面積を拡大。同時に、より多くの人に花のある空間を楽しんでもらうべく、愛知県尾張旭市にアンティーク家具と植物の魅力を体感できる「ゲストハウス藤の花」を立ち上げました。

ゲストハウスに続くガーデンはもともとあった大きな樹木や植物を生かし、つくり込みをおさえて自然に近い状態を保っている

星ヶ丘のギャラリーへと一歩入ると、個性的な草花や器の中で静かに存在感を放っているのが苔玉の作品たちです。和の趣を感じるインテリアグリーンとして、日本のみならず海外からも注目される苔玉は、土や植物を苔で包んで球体に整えた、まるで「手のひらに広がる小さな森」。苔をまとった土壌そのものを育てながら鑑賞できるのが特徴です。

ギャラリーに飾られた苔玉作品。藤の花らしいセレクトの花材が寄せ植えられて、個性豊かな趣

藤の花が苔玉を扱うことになったきっかけは、禮子さんの「藤の花にしかない植物の組み合わせで苔玉を形にしてみたい」というひらめきでした。思いを受け取った千以子さんは2019年頃から集中して技術を学び、藤の花流のスタイルで苔玉をデザイン。苔玉が本来持つ、見るだけで心癒されるイメージだけでなく、洗練された現代のインテリアにもなじむような上質でスタイリッシュな作品を生み出し、今や藤の花のシグネチャーともいえるアイテムとなりました。

Otonamiプランでは苔玉の制作に入る前に、苔と扱う花材の特性から学べる

藤の花では、苔玉を単なる土台としてではなく「花材の生育環境として育てる」ことまでを考えて設えます。Otonamiの体験でも、扱う花材によって異なる土の配合や、自宅に持ち帰った後も健やかに植物が育つ苔玉の糸の巻き方・土台づくり・手入れの仕方などを丁寧に教わることができます。

土の感触を楽しみながら苔で花材をやさしく包み込み、球体に整える

「凛とした美しさと柔らかな癒しをあわせ持つ苔玉の魅力をたくさんの人と共有したい」と語る千以子さん。土に触れ、苔を整え、花を包み込み、自らの手でつくり出した小さなアート作品は、暮らしの空間に設えてなお心豊かなひとときを届けてくれます。

花のある空間そのものを楽しんでもらいたい。藤の花が貫くこだわり

事業が幅広く展開される中でも、「花のある空間そのものを提案したい」という創業からの思いは色褪せることがありませんでした。2019年には、禮子さんの生まれ育った地である鹿児島県霧島市に、厳選した草花とこだわりのインテリアが響き合う空間を楽しめる「藤の花ホテル」をオープン。メキシコで出会い、一目惚れして手に入れたという3枚の扉を設えた、1日3組限定・全3室のスモールラグジュアリーホテルを誕生させました。

霧島の自然と触れ合う心地良いひとときを届けたいというこだわりが、空間の隅々まで散りばめられている

思い入れの深い扉を開けると、クルス氏によるデザイン性の高い家具と、イタリア、北欧などの調度品、そしてピカソやダリ、ラリック、ガレなどの作品が調和するアートな空間が広がります。特別なインテリアを引き立てるのは、その時期にもっとも美しい季節の草花。藤の花の圧倒的な世界観に包まれるような、感性に響く滞在体験です。

全客室に源泉掛け流しの露天風呂と内風呂を備え、露天風呂から地続きの庭は禮子さんが自らデザイン

またオープンから20年以上が経ったゲストハウス藤の花では、レトロなインテリアにマッチした花材を設え、ゲストの使用用途に寄り添った空間を提案。現在は、千以子さんの企画プロデュースでウェディング・パーティー事業を展開しながら、国内外の様々なジャンルの作家の展示会やワークショップを開催しています。

ゲストハウスでイベントを開催した時の様子。雰囲気に合わせて花材や器もシックな装い

「ホテルやゲストハウスと多方面にわたり展開できるのは、創業以来、店舗に足繫く通ってくださるお客様がいるからです」と、千以子さんは話します。普段は禮子さんと千以子さんがお花の制作を、和之さんが花材の仕入れや常連のお客様への対応を担当しています。

何度訪れても新たな草花との出会いを楽しめるのが、藤の花が長く愛されている理由

開業から35年以上欠かさずに力を入れてきたのは、週3回の仕入れ。独自のセンスで目利きを行い、藤の花の世界観にふさわしい植物を選ぶことを大切にしています。仕入れのたびに草花をレイアウトし、アレンジを加え、空間全体を模様替えするのが藤の花のこだわり。「いつ訪れても異なる雰囲気の店内で、新鮮なお花を選べるのが楽しい」と、週に2回足を運んでくれる常連客もいるのだとか。

“草花がそばにある幸せ”を届け続けるために

「私たちは創業以来、花の魅力を届け、草花のある空間そのものの心地良さを提供したい、その一心で妥協することなく目の前のことに向き合ってきました」と禮子さん。その姿勢は今も、藤の花の活動を支える基盤となっています。手がける空間が上質を求める感度の高い大人を惹きつけてやまないのは、そこに漂う一貫した美意識を感じ取れるからでしょう。

藤の花が提案する空間が、植物のある暮らしの楽しさを教えてくれる

「新しい技術や表現を学び続ける気持ちを大切に、花と向き合う時間をより多くの方に楽しんでいただけるよう工夫を重ねていきたいです」と千以子さん。親子2代で築き上げた揺るぎない藤の花の世界観は、これからも“草花がそばにある幸せ”を届け続けます。

藤の花

名古屋・星ヶ丘にあるフラワーギャラリー。1984(昭和59)年、オーナーでガーデンデザイナー・インテリアコンサルタントの藤田禮子氏が創業。ギャラリー内には独自の感性でセレクトされた草花と、禮子氏が海外から買い付けたインテリアが並ぶモダンな空間が広がる。

MAP

愛知県名古屋市千種区星が丘元町2-9 星が丘マンション1F