
Otonami Story
2026.04.21
“贈る”から“楽しむ”文化へ。現代の暮らしを彩る和モダン水引の世界
和モダン水引協会 代表理事 重田恭子さん
「贈りものに添える水引には、相手への想いが込められています。日本に古くから息づく奥ゆかしい心が表れていますよね」。そう語るのは、和モダン水引協会で代表理事を務める重田恭子さん。
お祝いの気持ちや願いなど、想いが宿る水引。ご祝儀袋の装飾のほか、近年ではアクセサリーやインテリアにも用いられ、新たな価値が生まれています。
長い歴史をかけて受け継がれてきた人々の想いはそのままに、現代の暮らしに寄り添うアイテムとして広まる和モダン水引の“Story”に迫ります。
贈る相手への想いが宿る、水引の歴史
水引のルーツは飛鳥時代、遣隋使が持ち帰った献上品にまで遡ります。そこに結ばれていたのは、紅白の麻紐。「帰路がどうか無事でありますように」という、隋の人々の清らかな願いが込められていました。この美しい心遣いはやがて、日本独自の文化へと昇華。贈りものに添える結び飾りは、公家・武家の間でも欠かせない礼法のひとつになったといいます。

室町時代になると、飾り紐の素材は麻紐から和紙へ。細く切り、強くねじったものが今に伝わる水引の原形です。髪をまとめる元結(もとゆい)としても親しまれていた飾り紐。庶民の間で広まったのは江戸時代末期といわれています。断髪令が下された明治時代からは、主に贈りものに添えるために使われていました。やがて大正から昭和にかけて、結納品を華やかに彩る伝統工芸へと進化。時代ごとの想いを宿した水引は、姿かたちを変えながら現代に受け継がれています。

いにしえから伝わる、意味を持つ水引
古来から伝わる水引の結び方には、それぞれに深い意味が込められています。例えば、蝶結びとも呼ばれる「花結び」は、出産祝いや昇格祝いなど“このような出来事が何度もありますように”という願いから生まれたもの。一方で結婚式や弔事、お見舞いなどに用いられる「結び切り(真結び)」は、“一度で終わりますように”という気持ちが込められています。

さらに、身近なところで見られる寺社仏閣のお守りの「叶結び」は、叶という漢字の“口”と“十”を合わせたような結び目が特徴的。これは贈る相手の願いが叶うように、との想いで結ばれてきたのだそう。

また、高貴なものとして扱われる皇室専用の「くれない水引」は、水引の産地・長野県飯田市に残るひとりの職人が一つひとつ丁寧に手がけています。市場には出まわらず皇室の様々な行事のみで扱われている貴重なもので、黒に見える部分は玉虫色で、手に取ると赤く見えるといわれています。
伝統の水引を暮らしになじむ和モダンなアイテムに
水引は、長年にわたりお祝い事をはじめ伝統的な場面で装飾として使われてきました。「結び方から紐の色までを丁寧に選んで、贈る相手を想いながら結ぶ。日本人ならではのしきたりを、心から素敵だと思いました」。重田さんは、水引と出会ったときのことをこう振り返ります。

しかし、水引の意味や魅力、日本で受け継がれてきた心が、あまり知られていない現状をもったいないと感じた重田さん。日本国内はもちろん海外にも広めようと、2019年に立ち上げたのが和モダン水引協会です。

活動の中で心がけたのは、古来より水引に込められた意味を引き継ぎながらも、現代の暮らしになじむアイテムに仕立てることでした。「最近はイヤリングやブローチなどのアクセサリーとしても親しまれていて、アートや手芸の領域にも入ってきました。水引の生産者や職人にとっては、衝撃的だったのではないでしょうか」。
また、色とりどりの紐で様々なデザインを楽しめるほか、邪気を払うと伝えられる水引に新たな魅力を感じる人が増えたのではないか、と重田さん。伝統的かつ現代的な在り方を掛け合わせた水引が、広く親しまれるようになってきたといいます。

和モダン水引協会では、アクセサリーからインテリア小物まで、利用シーンのバリエーションを広げ多様なモチーフやテーマでワークショップを行なっています。中には、海外のブランドとコラボレートして水引のデザインを取り入れたバングルも。贈り物に添えられていた水引が、暮らしに溶け込むアイテムに。和モダン水引協会は、今までの常識にとらわれず愛着を持てる水引の楽しみ方を提案しています。
伝統を継承しながら自由に楽しむ和モダン水引
重田さんをはじめ、和モダン水引協会に所属する「水引大使」と呼ばれる作家たちは、常に新しい水引アイテムを生み出しています。これまで水引に出会う機会がなかった人が、その魅力に気付き始めているという和モダン水引。編みものや和裁・洋裁など手芸を趣味とする人も、型や製図といったルールがない水引作品を新鮮な気持ちで楽しんでいるそう。

「水引を教える講座で感じてほしいのは、水引の意味の奥深さと、自由にかたちづくる楽しさです」。ときには参加者のユニークな色使いや結び方に、講師側が学びを得ることもあるのだとか。

和モダン水引協会では、日本各地で水引に触れる機会を増やし、いずれは世界で水引文化を広めていきたいという意気込みがあるそう。贈りものに添えるという意味では、西洋のリボン文化とも通じるという水引。「日本人はもちろん、海外の皆さんにも水引の魅力を伝えていきたいですね。願わくば、日本の文化といえば?という問いに対して、寿司や浮世絵などと並ぶくらい“水引”という言葉を広められたら」と、重田さんは語ります。

暮らしを彩る伝統×現代が融合した和モダン水引
日本に息づく水引文化は、長い歴史のなかで受け継がれてきた伝統や想い、日本ならではの美意識が重なり合い、時代とともに変化してきました。“結ぶ”というシンプルな所作でつくられる水引の新しいかたち。現代に寄り添う和モダン水引の世界に触れることで、豊かな感性が育まれ、日々の暮らしに彩りが添えられることでしょう。


和モダン水引協会
2019年に設立。伝統的な水引の技術をベースに、現代的な色使いや結び方を取り入れた「和モダン水引」の普及に務める。全国各地での講座や展示会、外国人向けオンラインレッスンを行うほか後進の育成にも尽力。また、企業とのコラボレーションなどを通じて水引文化の新たな魅力を国内外に発信。伝統と現代を融合した水引の新たな可能性を切り拓いている。
MAP