Otonami Story

2021.12.27

混ざり合う対極の技法。夫婦で紡ぐ、新たな陶芸文化。

Interviewee

蘇嶐窯 涌波蘇蕯さん・涌波まどかさん

独特の模様が刻まれた肌に、深みのある青の釉薬が染み込んだ『蘇嶐窯』のうつわ。悠然とした佇まいのなかにどこか洗練された不思議な魅力を放つのは、本来交わることのないふたつの技の融合が成立しているからです。

製作するのは、京都・清水で王朝の時代より育まれた“青瓷(せいじ)”を受け継ぐ、4代目当主の涌波蘇蕯さん。そして、福岡・小石原で十四代続く窯元に生まれ、土のぬくもりが伝わる民陶・小石原焼の技法“飛鉋(とびがんな)”を継承する妻のまどかさんです。

ご夫婦が出会ったことから実現した、京都の清水焼に福岡の飛鉋を施す陶芸文化のかけ合わせ。Otonami限定の体験では、ふたつの文化を存分に味わいながらご夫妻との共同製作がかないます。「お互いに持ち寄った技法と想いをたくさんの人に体感してほしい」と話すお二人に、プランに込めた特別な“story”について聞きました。

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互いの技法を持ち寄り、次世代に継承する

京都・清水の大通りに工房を構える「蘇嶐窯」は、現当主の涌波蘇蕯さんが4代目となる老舗窯元。代々“練り込み青瓷”と呼ばれる技法で磁土に顔料を混ぜ込み、独特の深みを持つ青に彩られた器を製作していました。

蘇嶐窯の写真
釉薬が染み込んだ色のコントラストが美しい

蘇蕯さんが妻のまどかさんと出会ったのは、亡き父の技法を継承しようと門戸を叩いた京都府立陶工高等技術専門校でした。まどかさんは家業を継ぐため、福岡の実家を離れて入学。茶の湯を背景に花開いた京焼・清水焼と、用の美を極めた小石原焼。異なる窯元出身のお二人でしたが、卒業してすぐ人生を共にすると決めました。

お二人の出会いがあってこその蘇嶐窯
お二人の出会いがあってこその蘇嶐窯

そこから蘇嶐窯が誕生したのは結婚から10年以上経ってから。きっかけは当時小学生だった長男の「将来は5代目を継ぎたいけど、陶芸だけじゃ食べていけないからバイトをしないと」の言葉。目の前の仕事を精いっぱいこなす日々でしたが、ここから次世代にバトンを渡すことを見据えた製作活動がスタートしたのです。

新たな試み、周囲の反応から「大丈夫」と確信

蘇嶐窯の作品の魅力は、異なる産地の技術が混ざり合って醸し出す唯一無二の風合い。京焼・清水焼の生地に小石原焼の技法である飛鉋を施し、そこへ釉薬をかけると削られた土の溝に釉薬が溜まり、濃淡によって文様が浮かび上がります。

小石原焼の技法である飛鉋を入れるまどかさん
小石原焼の技法である飛鉋を入れるまどかさん

お二人は当初、青磁のうつわに民芸の技法を加えることに抵抗があったといいますが、初めて完成した作品を見たときは「案外いいね」と顔を見合わせたそう。青磁が生活に寄り添ううつわに変化したことで親しみやすさが増し、より多くの人に手に取ってもらえるようになりました。

周りの人からのリアクションから「この方向に進んで大丈夫なんだ」と少しずつ自信が持てたそう。かつて都だった京都は各地の職人たちが呼び寄せられて各々の技術を磨いた地。「”一見さんお断り”なんて敷居の高さはあるものの、新しいものを面白がれる土壌も持ち合わせているんです」と蘇嶐さんは笑います。

作る工程や職人の想いを知れば、作品にストーリーが生まれる

工房は清水寺にほど近い大通りにあり、多くの観光客が行き交います。「陶芸の流れを知らない方が多く、今日作って持って帰れますか?と聞かれることも」と、まどかさん。陶器をもっと身近なものに感じてほしいとの願いを込めて、Otonamiではプレミアムな実演見学を組み込みました。お二人が電動ろくろで成形する様子、そして飛鉋で模様を施す工程までも間近で見ることができます。

ろくろ成形前の土作りは、練り込み青磁の要
ろくろ成形前の土作りは、練り込み青磁の要

器の一つひとつがどのような工程を経て作られているのかを知れば、自分の作品により愛着が湧き、長く大切にできるはず。「陶芸のシーンをご覧になったことで器を見る目が変わったり、お茶碗で食べるときに一緒に作った人との会話や工房の雰囲気を思い出したりしてくれたら嬉しいです」。

清水焼と小石原焼が融合する蘇嶐窯ならではの光景
清水焼と小石原焼が融合する蘇嶐窯ならではの光景

陶器をもっと身近に感じてほしい

今回のプランでは、ご自身が手びねりで形作った器に、後日まどかさんの飛鉋を刻み込み、選んだ釉薬を染み込ませてご自宅までお届けします。「わたしたちの作品は青瓷と飛鉋の技法を融合したところに特徴がありますが、さらにお客様の作品とかけ合わせることでどのような効果が生まれるでしょうか。お手元に届くまで分からないワクワク感を楽しんでもらいたいですね」。

出来上がりを待つ時間も、体験の醍醐味のひとつ
出来上がりを待つ時間も、体験の醍醐味のひとつ

「高く遠い存在に思われがちな伝統工芸ですが、見渡してみれば生活のすぐそばにあると気づいてもらいたい」。これが、お二人が本体験に託す想いです。伝統技術が凝縮されるなかにも親しみやすさを持ち合わせた蘇嶐窯の作品たちが、きっとそのきっかけとなってくれるはず。ご夫婦二人で紡いだストーリーに加わって、共同製作で仕上げる器作りを堪能してみませんか。

蘇嶐窯 Soryu Gama

京都・清水焼と福岡・小石原焼に伝わる技術を融合させて一つとなった窯。深みのある青を表現する京焼青磁に、小石原焼の技法である「飛鉋」を入れて釉薬を染み込ませ、独特の文様を表現する他に類を見ない作品作りが話題に。その作品は、BEAMSやURBAN RESEARCHといったセレクトショップからも販売され、幅広い世代から支持受けている。

MAP

京都市東山区清水4丁目170-22

Special plan