Otonami Story

2022.06.24

導かれるままに。誰からも教わらず誰にも継承しない、刹那の瞬き。

Interviewee

TNCA☆南青山スタジオ 中野拓さん

陶芸作品特有の重厚感に、表現しがたい色合いと美しいフォルムを携えたうつわ。宇宙からインスピレーションを受けたという作品の数々は、私たちに想像の余白を与え、自由なおおらかさを感じさせます。

「そう感じるのは、私が誰にも教わったことがないからでしょう」とほほ笑むのは、「TNCA☆南青山スタジオ」を主宰する、陶芸家で金継ぎ師の中野拓さん。拓さんは窯元の出身でも陶芸家の弟子でもない、会社員から独立し、たった一人で技を磨いた異色のアーティスト。伝統的な日本の焼き物の技法を主軸に、形式にとらわれないアイデアを投影した作品が注目を集めています。

「自分が価値があると思うものに導かれてここまできた」と、36歳でスタートさせた陶芸家人生を振り返ります。今日までの歩みと作品への想いを聞いてみると、そこには拓さんにしか描けない“story”がありました。

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はじめての作品から見つけた、世界にひとつしかない価値

拓さんが陶芸と出会ったのは会社員時代。転勤先の静岡でした。自宅近くの工房が目に留まり中をのぞくと、そこにはろくろを回すたくさんの人たちが。楽しそうな姿に惹かれ、一緒に製作を始めるようになったそうです。「どんなものを作ろうかと考えるのが面白いし、形作ったものに釉薬がかかって焼き上がると劇的に色が変わる。これもまた面白い。焼き物にしかない魅力に引き込まれていきました」。

「TNCA☆南青山スタジオ」の前身「彩泥窯」にて、ろくろを回す拓さん

当時は高度成長期の真っ只中。出来上がったうつわには、大量生産品のような使いやすさやクオリティはありませんが、時間をかけて作った自分だけの作品に、確かな価値と愛着を感じられたのだそう。「自分が価値があると思うものにエネルギーを注ぎ込み、自分にしかできないことにチャレンジしよう」と、陶芸の道に進むことを決めたのです。

導かれる方向に進んでいたら、新しい景色が見えた

幼い頃から、人から教えられるよりも自分のやり方を見つけることが好きだった拓さん。誰にも教えを乞うことなく、また真似することもせず、一人で技を磨いてきました。星の数ほどの失敗から、時間をかけてうまくいく方法を身につけたのだといいます。

虹色に輝く螺鈿(らでん)を用いたボウル「超新星爆発」

そんな拓さんがインスピレーションを得るのは、空や花などの自然物。“AstRomantic=Astro(未知の世界)へのRomantic(憧れ)”をコンセプトに、気がつけば宇宙の天体や天文現象をモチーフにした作品作りに励むようになっていました。「手を動かし目の前に現れたものに向き合っていたら、新しい景色が見えてきて。しばらく対話しているとまた違う景色が現れ、最終的に今の作風になりました。はじめから目指すものがあったというよりは、導かれていった……というほうが正しいですね」。

美術館とアトリエを融合したスタジオ。独学で編み出した作品は、想像を掻き立てられる

表参道の空気を取り込み、作品がキラキラと輝き出した

千葉・行徳に工房を構えていたとき、拓さんの作品に惚れ込んだビルの経営者から「うちの商業施設でぜひ教室を」と頼まれたことがきっかけで、2014年に表参道へと進出することとなったのです。
それまでは「彩泥(色の金属を混ぜ合わせた泥で彩色する技法)」を中心に創作していたものの、移転後には「ラスター」と呼ばれる技法を駆使して光沢や虹彩を引き出したり、セラミックや吹きガラスを金継ぎと融合するなど、発想は広がりを見せます。「表参道で呼吸することで、キラキラとしたものに導かれていきました」。

新旧が混在する表参道はアイデアの宝庫。Otonamiでは、拓さんと共に表参道の街歩きも楽しめる

金継ぎを始めたのもまた、自然に導かれた結果なのだとか。共にうつわを製作した方から修理の依頼が来るようになり、最初は「焼き継ぎ(鉛ガラスを熔かして破片同士を接着する技法)」で応じていたものの、次第にプラスチックや漆といった焼けない素材の作品まで頼まれるように。伝統的な金継ぎのほうが幅広く引き受けられるのだと、本格的に勉強し始めたそうです。

オリジナルの土で作られた貫入のうつわ。天然漆を塗布することで、ひびを活かした美しい模様が出現

人生は一度きり。儚いからこそ生命の美しさが輝く

「自分で苦労して見つけた技法には愛着があります。だからこそ、この素晴らしい作り方を、これまで一生懸命伝えてきました」と、多くの著名人への指導実績を持ち、メディアからの出演依頼も多い拓さん。
そんな熱意あふれる拓さんのスタジオは、いつもたくさんの生徒たちで賑わっていますが、Otonamiの体験プランはプライベートレッスン。会話を楽しみながら直接指導が受けられる、刺激的なひとときとなるでしょう。

拓さんの作品や姿勢は、実りある人生のきっかけを与えてくれる

拓さんは誰かの技法を真似すること同様に、自分の技法を継承することにも興味がないと話します。
「人生は一度きりだから美しい。儚いからこそ生命は輝くのだと思います。自分らしい生き方で創作活動ができればそれでいい。そうあるべきだと思います」と、拓さん。どんなことに価値を見出し、情熱を注いで生きていきたいか……。もしかするとOtonamiでの拓さんとの出会いが、これからの人生にあらためて向き合うきっかけとなるかもしれません。

Taku Nakano Ceramic Arts☆南青山スタジオ

独学で技を磨いた陶芸家で金継ぎ師の中野拓氏が主宰するスタジオ。陶芸や金継ぎの教室、初心者向けのワークショップなどを開催し、日本文化の素晴らしさを伝えている。美術館とアトリエが融合した場所でもあり、展示作品の鑑賞も可能。

MAP

東京都港区南青山3丁目8-2

Special plan