
Otonami Story
2025.2.28
食卓から暮らしを豊かに。上方料理の魅力や食の大切さを発信し、未来につなぐ。
Interviewee
料理家 吉田麻子さん
NHK『きょうの料理』や『婦人画報』など、数々のメディアで活躍する料理家の吉田麻子さん。これまでに和食を中心としたレシピ本も多数執筆し、自身が主宰する料理教室は予約が取れないほどの人気です。
「食の都といわれた大阪で育ち、幼い頃から食を大事にする両親とともに、食卓を囲む暮らしを大切にしてきました。その思い出が、今の自分の仕事につながっているのかもしれません」と吉田さんは語ります。
様々な料理教室で腕を磨いてきた吉田さん。「食材を大切にし、心を込めて料理を作る」という信念のもと、和食や日本料理の魅力、そして食の大切さを発信し続けています。関西を代表する料理家のひとりである吉田さんが紡いできた食の“Story”に迫ります。
家族の食卓が育んだ料理家としての原点
食を大切にするご両親のもとで育った吉田麻子さん。料理好きのお母さまがつくる手料理や、美食家のお父さまに連れて行ってもらった料理店での食体験は、吉田さんの料理家としての原点ともいえます。特に、お母さまは器や飾り付けも季節に合わせて選ぶなど、空間演出まで細やかにこだわられたそう。家族で食卓を囲み、ともに食事を楽しんだ思い出が、吉田さんの「食は人の暮らしを豊かにするもの」という強い信念を培ったのでしょう。

「現代人は忙しく、じっくり丁寧に料理をする時間がなかなか取れないという声をよく聞きます。私の料理教室では、手軽にできる家庭料理の作り方も教えています」と微笑む吉田さん。小さなお子さんを持つ生徒さんから、「息子がおいしいと言って料理をたくさん食べてくれるようになりました」と喜びの声をもらうことも。自分の料理を通して誰かが幸せになることに、講師としてのやりがいを感じると言います。

遅咲きだった料理家としてのキャリア
今でこそメディア出演や料理本の執筆、企業のレシピ開発・監修、料理教室、食育イベントへの登壇と多岐にわたり活躍している吉田さんですが、実は料理家としての活動を本格的にスタートさせたのは40歳を過ぎてから。これまで数々の料理教室で学んできたことをアウトプットしてみようと思い立ち、料理教室を開いたのが始まりでした。

「教室を開いた当初は友人たちが来てくれましたが、大きな実績と呼べるものがなかった時期。なかなか思うように集客できずに大変でした」と、吉田さんは当時を振り返ります。そんな吉田さんに転機が訪れたのは、出版社に勤める教え子からの「料理本を出してみませんか」との誘いを受けたことから。素朴な家庭料理も、ちょっとの工夫で見違える。そんな思いを込めた「家庭料理以上、割烹未満」というコンセプトを打ち出した本の出版を皮切りに、料理教室以外の場での活躍が増えていきました。

世界の食文化を学んで気づいた和食の魅力
調理師学校を卒業後、中国やイタリア、韓国など多様な国々の食文化を学び、料理の腕を磨いてきた吉田さん。また、料理を通して様々な活動に携わるなかで、和食や日本料理の魅力をあらためて実感したと話します。「家族で食事をするときも、自分専用のお箸やお茶碗を用意して食卓を囲む食文化があるのは日本ならでは。そういった当たり前と思われている風習も、実はとても素敵なことだと思います」。

食材を無駄なく使うこと、季節感を大切にすることなど、和食や日本料理の根幹には日本人が古くから大切にしてきた心が根付いています。そのため吉田さんの料理教室では、二十四節気になぞらえた季節の料理をはじめ、季節ごとの器の選び方、しつらえ、伝統行事についてのレクチャーも。料理の技術だけでなく、日本の食文化について学びを深められる点も喜ばれています。

「天下の台所」と呼ばれた大阪の上方料理
Otonamiの体験プランでは、「上方料理の魅力を知ってほしい」との思いから、吉田さんが生まれ育った地元大阪にスポットを当て、二十四節気をテーマにした旬の料理を紹介しています。吉田さんが手がける上方料理とは、大阪を中心とした関西地域に根ざした料理のこと。「かつて天下の台所と呼ばれた大阪では、たくさんの調味料を使わず、素材の持ち味を活かした料理が作られてきました。大阪といえばお好み焼きやたこ焼きなど、“粉もん”のイメージが強いかと思いますが、それだけではない大阪の食の良さも伝えられたら嬉しいです」。

例えば、日本三大祭のひとつに数えられる大阪の「天神祭」の時期に、ハモを食べる習慣があるのも上方ならでは。レッスンでは古くから祭りと食には深い結びつきがあるといった、伝統文化と料理にまつわる歴史について紐解く時間も。また、和食の基本である出汁の取り方も丁寧にレクチャー。プロの技を間近で見学しながら、普段の家庭料理に取り入れたい料理のコツを学びましょう。

「おいしく、楽しくが一番」食を通して日々の暮らしに豊かな時間を
「食はおいしく、楽しくが一番大切だと思っています。もちろん日本の食文化の伝統はしっかりお伝えしたいですが、難しそうと壁を作ってほしくありません。まずは気軽な気持ちで来てもらえたら」と話す吉田さん。食は単なる栄養摂取が目的ではなく、日々の生活に彩りを与え、心を豊かにしてくれるもの。特別な“ハレ”の日も、日常の“ケ”の日の食卓も、心を込めて作った料理はそれだけで十分おいしくなる。吉田さんのお話を伺っていると、料理には暮らしを変えてくれるパワーがあるような気がしてきます。

これからは、さらに多くの人々に和食や日本料理の魅力を発信すべく、活躍の場を広げていきたいという夢をもつ吉田さん。「特に、お米や出汁の魅力をもっとたくさんの方に知っていただきたいですね」と、イベントの計画も進んでいるようです。「食の大切さを伝えるため、こども⾷堂や⼩学校、児童養護施設などでの食育活動にも一層力を注いでいきたいです」とも語ります。吉田さんの今後の活躍からますます目が離せません。

吉田麻子
大阪出身。NHK『きょうの料理』をはじめ、テレビや雑誌などのメディア出演多数の人気料理家。吉⽥⿇⼦料理教室主宰、上⽅⽂化研究會代表。料理本の執筆、企業のレシピ開発・監修、食育イベントへの登壇など多岐にわたり活躍。主宰する料理教室は予約が取れないと評判に。著書も多く、2018年、2019年の2年連続で「料理レシピ本大賞」の料理部門にて入賞。近著『ごくごく飲みほす だしの本』は第2弾も出版予定。日本料理に定評があり、なかでも上方料理など⼤阪の和⾷⽂化を普及するべく活動の幅を広げている。
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