世界の日本酒コンクールで高い評価を得る「瀬戸酒造店」
東京から電車に揺られておよそ1時間半~2時間。窓に映る景色にしだいに緑が増えてきます。向かうのは神奈川県開成町にある「瀬戸酒造店」。1865(慶応元)年に創業した歴史あるこの酒蔵は、1980(昭和55)年に自家醸造を中断していましたが、町を愛するたくさんの人が尽力して2018年に醸造を再開。その後は、フランスの日本酒コンクール「Kura Master」で最高賞を連続受賞しているほか、醸造するほぼすべての銘柄がコンテストで賞を受賞するなど躍進を続けています。
2018年に再始動すると、瞬く間に世界トップレベルの酒蔵に成長した「瀬戸酒造店」あまり知られてはいませんが、神奈川は日本酒の生産が盛んな県。県内には現在14の酒蔵があり、そのうちの6軒は静岡県から神奈川県西部を流れる酒匂川(さかわがわ)流域に立地しています。瀬戸酒造店はその中でも一番西側に位置する酒蔵。そのためこの土地の水には、日本の名水として名高い中硬水の丹沢の伏流水と、軟水の富士山の水が混ざっています。この自然の恵みこそが、綺麗で丸みのある酒質を醸し出すのです。
昔懐かしい日本の庭を再現。軒下には縁側も用意されている「ここは静かな場所です。上質なものを特別な地でじっくり楽しみたい方に来ていただけたら」と話すのは、代表の森隆信氏。その言葉通り、周辺には田んぼやあぜ道が広がり、水路のせせらぎが聞こえてくるほどの静けさに満ちています。「おいしいお酒を囲めば自然と会話が生まれますよね。私たちはそんな出会いを演出する空間として、酒蔵全体を“Sake Terrace”として開放しています」。
開成町の自然が織りなす日本酒に可能性を見出した、瀬戸酒造店の代表・森隆信氏世界トップクラスのお酒が生まれる醸造所を見学
瀬戸酒造店では4種の米と10種の酵母を使い、22種のお酒を醸造しています。本体験では、世界が注目するお酒が生まれる醸造所に足を踏み入れて見学します。(見られる工程は時期によって異なります)
昔ながらの蒸米方法を再現した希少な機械で作業する杜氏まずは1階で、精米後に残った糠を洗って取り除く「洗米」と、熱い蒸気で米を蒸す「蒸米」の工程を見学します。「洗米は時間が命」と話す森氏。ほんの1秒がお酒の出来映えを左右するため、3人一組で時間を管理しながら作業を進めます。また、蒸米の工程では、和窯を用いる昔ながらの蒸米の方法を再現した最新式の甑(こしき)から、立ちのぼる蒸気と蒸米の香りを感じることができます。
我が子のように手間暇かけてつくられる麹続いては2階へ。ここでは通常の醸造所見学ではあまり見られない酒母づくりや、日本酒になる前の醪(もろみ)の状態を見学します。まずは麹室を見学。この過程では杜氏が蔵に泊まり込み、3日にわたって3時間おきに麴の手入れをしています。仕上がった麹、蒸米、水などを混ぜあわせて発酵させたものが酒母です。時季によっては、おいしい日本酒のもととなる発酵がスタートする、緊張の瞬間に立ち会えることも。
酒母がつくられる部屋も見学。お酒づくりの過程を丁寧に説明してもらえる醪は酒母(しゅぼ・日本酒づくりの土台となる優良な酵母)に水、蒸米、麹を3回に分けて加えて仕込んだものです。発酵を終えた醪を濾すと、私たちがよく知る日本酒の姿になるのだそう。醪がつくられる部屋にはサーマルタンクが導入され、杜氏がタンクの温度を1度単位で調整しています。
とっておきのグラスで味わう3種類の厳選酒
醸造所を見学し、瀬戸酒造店のお酒のおいしさの秘密を覗いた後は、いよいよ日本酒3種の飲み比べの時間です。それぞれコンセプトやテーマのある22種の銘柄のうち、おすすめの3銘柄を味わいましょう。ゲスト一人ひとりの好みやその日の気分に合わせて、森氏が丁寧にセレクトします。さらに、タイミングがよければ販売されていない生酒や企画段階のお酒を試飲させてもらえることも。日本酒との一期一会を楽しみましょう。
お酒に関する些細な質問にも丁寧に答えてもらえる数ある銘柄のなかでも、瀬戸酒造店を語る上で欠かせないのが、開成町の町花であるあじさいの花酵母を使用した日本酒です。「あじさいの花酵母で日本酒を醸造しているのは、日本でここだけだと思います」と森氏。開発には苦労もあったということですが、完成までにおよそ10年かかるのが普通といわれているなかで、わずか一度の試作で完成したという奇跡のお酒です。
右3本があじさいの花酵母を使ったお酒。ネーミングやラベルのデザインにもこだわりが詰まっているとろみのある口当たりで、白ワインのような華やかさと、ほのかな甘さが特徴的な逸品。開成町を愛する瀬戸酒造店だからこそ完成した、ここでしか味わえない至極の逸品です。お酒の特徴はもちろん、名前の由来や誕生秘話などが聞けるのも酒蔵ならでは。事前に気になっている銘柄があれば、リクエストしてみるのもおすすめです。
縁側に座って楽しむお酒。吹き抜ける風が心地良い日本酒というと伝統的なお猪口で飲むシーンを思い浮かべますが、瀬戸酒造店ではドイツで製造された日本酒専用グラスを使用。お猪口以上に繊細に香りを楽しめるのだそうです。
3脚の日本酒グラスがぴったりと収まる特製の桝を手にしたら、飲み比べの舞台を求めてSake Terrace内の散策へ。花畑でリラックスしながらいただいたり、庭園でしっとりと過ごしたり。ゲスト同士の会話を楽しむなら、田んぼや蔵の前のテーブルがおすすめです。自分だけの場所を見つけて、存分にお酒を楽しみましょう。
七輪でじっくり焼いた発酵料理をお酒と共に
3種類のお酒とあわせて、Otonamiプラン限定で日本酒に合う発酵食材を七輪で焼くオリジナルメニューも用意。瀬戸酒造店の酒粕に漬け込んだ魚介や瀬戸酒造店の酒粕を食べて育ったブランド牛を中心に、旬の食材が並びます。野菜は開成町で収穫された新鮮なものを味わうことができます。
七輪でじっくり焼くと素材のおいしさが際立つ炭火を使ってじっくり焼いたお肉は、旨みが閉じ込められて驚くほどジューシ―。外側はカリッとしているのに柔らかく、一口食べれば口の中にお肉の甘みが広がります。また、七輪で焼いた野菜のおいしさを高めてくれるのが醤油麹。酒蔵の麹を醤油に合わせて発酵させた、瀬戸酒造店オリジナルの調味料です。どの食材がどのお酒に合うか、それぞれのおいしさを引き出す組み合わせを考えながらいただくのも楽しそうです。
瀬戸酒造店の麹がたっぷり入った醤油麹自然の恵みを享受する心豊かな時間
日本酒と発酵料理のペアリングを堪能した後は、敷地内の直売所へ。体験の思い出に、日本酒(300ml)を1本おみやげとして持ち帰れます。「月の歌」「風が吹いたら」「はるばる」など、詩的なネーミングも魅力の瀬戸酒造店のお酒。数種類あるラインナップから気になる銘柄を自由に選んでください。もちろん、実際に飲んでみて気に入ったものをリピートするのも良いでしょう。
直売所ではお買い物も楽しめます。日本酒はもちろん、酒粕入りの石鹸やTシャツ、お猪口なども購入可能。七輪焼きで登場した発酵調味料・醬油麹は、家族や友人へのおみやげにもぴったりです。
開成町の豊かな自然に抱かれて味わう1杯は格別のおいしささらに、希望者には最寄りの開成駅からトゥクトゥクに乗って周辺を見学できる送迎プラン(所要時間約20分)も用意しています。夏には夏の暑さを、冬には冬の寒さを感じながら眺める開成町の豊かな自然の姿は、心に残ることでしょう。晴れた日には山の向こうにそびえる富士山が見渡せるかもしれません。
爽やかな風を感じられるトゥクトゥクで送迎地下80mほどの深層地下水を汲み上げてつくられる瀬戸酒造店のお酒。日本酒とその醸造に欠かせない発酵は、良質な水と豊かな自然がなければ成り立ちません。瀬戸酒造店の醸造所を見学し、日本酒を片手に過ごすひとときは、自然の偉大さと醸造技術の奥深さに気がつくきっかけとなるでしょう。